with you 2
先ほどの英二とのやり取りを見て手塚は静かに話が出来る店を望んでいると不二は判断し、比較的落ち着いた雰囲気のある小さなパスタ専門店を選んだ。
落ち着いたといっても普通に家族連れでの来店もあるので中学生同士で食事をしていてもおかしくはない。
「良かったのかなあ?英二と桃・・なんか悪かったかな。」
出来立てのラザニアにフォークで一筋の道を作り、熱気を放出させながら少しばかりの心痛を口にした。
「あいつらがいるとどうしても騒がしくなるからな。」
「そうだけど・・・。あ、ねぇ手塚の話って何?部の事?それとも意外と皆に知られちゃまずい事だったりとか?」
手塚が自分に話とは何だろう?しかもわざわざ人払いしたくらいだ。
不二はかなりの好奇心に駆られ興味津々に目を輝かせていたが、手塚から出た言葉は至極意外なものだった。
「いや、別に話はない。」
「・・・・へ?・・だって・・」
「お前、そういう気分じゃなかっただろう?」
「え・・僕?」
確かにそういう気分ではなかった。
一人になってあれこれ考え込みたくなくて、テニスのお礼と称し手塚を誘ったものの、英二たちと陽気にはしゃぐ気分には到底なれそうもない。
だけど手塚がそれを見抜いていたなんて・・・。
「如何して・・手塚?」
「珍しく苛付いていたと思って。」
「・・・・・・」
「普段、お前はあまり感情を表に出さないからな。あんな風にプレイに出ていたら何かあったのかと普通は思うだろう。」
「そっか・・なるほど。さすがだね、手塚。」
すっかりフォークを持つ手が止まった不二は、少し俯き加減に苦笑しそのまま口を噤んでしまう。
苛々の原因をどう話したものかと、ほんの少しだけ沈黙になってしまったその間が何となくぎこちなくて、口にのせる言葉を選んでいると・・・
「・・・・らどうだ?」手塚の言葉の末尾が耳に入った。
「ごめん。何?」
「冷めるから早く食べたらどうだと言ったんだ。」
「・・・・・・」
「早く食べろと・・」
「あ、うん。聞こえたよ。でも、・・その聞かないの?苛々の理由。」
「俺には、関係ないからな。」
確かに手塚には関係ない。いや、元々恋人との初体験話等大手を振って話せる事ではなかった。
手塚の言う通り聞かれたところで困るだけなのだが、こうもキッパリ言い切られるとそれなりにショックであるというのは横暴であろうか。
「そ・・うだね。手塚には関係ないよね。ごめん・・・」
不二の言葉や顔つきから手塚は自分の一言が誤解を招いたらしいと察知した。
「い、いや、そうじゃない。お前が聞いて欲しいならいくらでも聞いてやる。
ただ、無理に聞き出すのは良くないというかお前が困るのではと・・・・」
尻切れトンボになった言葉が手塚の焦りを象徴していた。
どんな時でも冷静沈着な彼が見せた意外な一面に不二は聊か驚いたが、何故か急におかしくなって思わずぷっと噴出した。
「・・・・・・・・」
眉間に皺、手塚が少し機嫌を損ねた合図である。
「くすくす・・ごめん気悪くした?でも・・・あははは、手塚でも焦ったりするんだ。」
「当たり前だ。俺は土偶じゃないぞ。目の前でそんな顔されたら焦りも・・・・何がそんなにおかしい?」
真剣に答えている手塚に申し訳なくて必死で唇を噛み締めて堪えていたが、小刻みに肩で笑っているのは隠しようもなく、
「ぶっ!くっくっ・・あは・あは・・あはははっははは・・・」
ついに大声で笑い出してしまった。手塚の眉間の皺が一層深くなったのは言うまでもない。
「あは・・ごめ・・土偶になんて・・例えるから・・普通さ、その場合ロボットとか人形とかって言わない?でも・・・ぷっ・・手塚に似合いすぎ〜。」
「そんなに笑うほどの事か。それに土偶だって人形だ。」
「ぶっ〜〜〜〜〜。そ、そうだけど・・。何ていうかいいキャラだよね、手塚って・・。」
「俺はいたって真面目だし、目の前で女の子が沈んだ顔をすれば焦りもする。」
至極当然に不二を女の子と言い切った手塚に少し驚いた。
「へ・・・ぇ。君は僕を女の子と思ってるの?」
その不二の言葉に手塚が目を丸くした。
「何を言っている?まさかお前っ・・・『実は男です』とか言うんじゃないだろうな。」
「い、いやそういうことじゃなくて・・」
「真剣に返すな。冗談だ。」
「・・・・・」
冗談?・・・確かに冗談かもしれない。だが、冗談と言うのはもっと明るく言うのでは・・・・・。
そう思うとおかしくて、不二はお腹を抱えて笑い転げた。
「お、面白すぎる。絶妙だよ、君って。」
「真面目だと言ってるだろう。」
「うん、そうだね。真面目だから可笑しいんだよ。あはは、なんか今日は腹立つやら、滅入るやらでむしゃくしゃしてたんだ。でもどうでも良くなっちゃった。手塚のお陰だね。」
「俺は何もしてないが・・・」
「ううん。十分笑わせてもらったよ。」
「お前が勝手に笑ってるだけだ。だが・・・すっきりしたのならそれでいい。」
「手塚・・。」
さりげない気遣いが嬉しかった。
きっと自分に付き合ってくれたのも何時もと様子が違うかったからだろう。
彼にこんな一面があるなんて。
何時も仏頂面で堅いだけの奴かと少し思ってたけどホントは凄く――――優しいんだね
不二は目を細めて微笑んだ。
結局不二の苛々の原因は語られることはなく、手塚もそれ以上何も聞かなかった。
「ねぇ、ところでそれ、何頼んだの?」
手塚の前にあるあまりお目にかかったことのないパスタにそんな疑問が不二の口から自然に出た。
「ウナギと納豆の和風スパゲッティだ。」
「・・・・・・・・・」
××××××××××
「今日は付き合ってくれて本当にありがと。楽しかったなあ・・手塚がこんなに面白いなんて。くすくす・・」
「俺は真面目だといってるだろう。」
「分かった。分かった。真面目にウナギのパスタとか頼む人だもんね。あれ、きっとお店のワースト1だよ。」
「そんなことはない。結構旨かったぞ。だからお前も食べてみろと言ったんだ。」
「冗談でしょ。嗅覚には自信があるんだから。凄い臭いだったもの。」
「嗅覚は味覚に順ずるものがあるはずだが。お前の味覚は確か尋常じゃないと聞いたが。」
「ちょっ・・誰が」
そんなことを言ったのかと問おうとするのを携帯の着信音が遮る。
一瞬不二は戸惑いの表情を見せる。
着信音でメールの送り主が今朝自分を放っていった奴だと分かったからだ。
何時もなら手放しで喜んでいそいそと携帯に目をやるが、今日は手に取る事すら躊躇われた。
不二の様子を怪訝そうに見つめる手塚。
「出なくていいのか?」
「メール・・・だから。」
そう言ったもののやはり気になって「やっぱりごめん・・」不二は一言断ってから鞄から携帯を取り出した。
家で待ってる。
一行だけの簡単なメール。
これだけで自分を呼びつけられると思っているんだろうか。
「ったく、自惚れてるよ。」パタンと携帯をたたんで鞄に放り込んだ。
「行こう!手塚。」不二は強めの歩調で歩き出す。
「・・・ああ。」
先ほどまであんなに饒舌になっていた不二が終始無言でしかも苛々が復活したようだ。
黙って横を歩いていた手塚が急に足を止める。
そのまま勢いで歩き進んだ不二だったが自分の視界から手塚が消えた事に気付き振りむいた。
「どうしたの?」
「放っておいていいのか?」
「何を?」
「さっきの電話だ。苛々の原因だろう。」
「なっ・・」
何故分かったんだろう。不二は言葉に詰まる。
「すっきりしないなら解決してきたらどうだ。気になるから余計苛々するんだろう。俺が口を出す事ではないんだが、すまない。」
「謝らなくていい。手塚の言うとおり・・。」
不二はすっと顔を上げにっこり微笑んだ。
「ありがとう。僕、行ってくるね。」
不二は手塚に背を向けて今来た道を小走りで戻っていく。
手塚は不二の背中を暫く見送っていた。
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