「ではインスピレーションで選んでください。あなたがビビッときた相手の番号を上げてくださいー!!」

え・・?
え・・・と?番号って何?
これって電気がぴぴっとなって繋がった同士だけが披露されるんじゃなかったっけ?

ちらっと僕をこの場に押しやった奴に視線を送る。
片目を瞑りながら舌を出してゴメンと手を合わせる友人。

嵌められたっ!?

「さぁー、ベストカップル誕生なるかー!!」

ちょっ、ちょっと待って・・!

盛り上がる司会と観客。
目の前には5人の恋人候補者。
と言っても相手にも選ぶ権利はあるわけで。

彼らにとってもこっちに5人の候補者がいて、見事互いに直感した相手が同じであればゴールイン。

なんでこんなイベントに僕が出場してるのか、未だ疑問ではあったが、それよりも何よりも公衆の面前で告白するのも同じという現状が信じられない。
しかもこのしくみは上手く行こうが玉砕しようが、僕が誰を指示するか分かるわけで。
そして彼らが誰を選ぶかも一目瞭然。

そんな・・・こんなとこで僕は失恋するの?
僕の失恋って、ひっそりと誰にも知られずにやってくるんだと思ってた。
そう、恋の相手にすら一生知られる事はないって。

自分だけで終わらせる。決して伝えることのない想い。
実る可能性が殆どないと分かっていても、そういう生き方しかできないから。

なのに、何だよこの展開?
しかも全校生徒が集まってんじゃないかというギャラリーじゃないか!
きっとそれは君がいるから・・・なんだろうけど。

焦る僕の気も知らず、着々と目の前に置かれる5本の番号札。

どどど、どしよう。
君はなんでそんな落ち着いた顔してんだよ。
だいたい君みたいな人がこんなところに参加して、誰かとカップルになっちゃうなんて予想外も甚だしくない?
もしかしてこの中に好きな人がいるの・・かな。
それともこんなの学園祭でのただの余興くらいに割り切って・・・?

そうだよ、彼に限ってきっとそうに違いない。
だったら僕も割り切ればいいんだ。
やっぱり他の人だと悪いからって、後で笑って誤魔化せばいい。
同じ部活だから大目にみてねって。

ぐっと決心して彼のナンバー@の番号札を握りしめる。

でも・・・もし彼が目の前で他の子とカップルになったら、そんなの言い訳っぽいだけだし。
それなら違う番号を・・・。
だけど、そんなこと万に一くらいだと思うけど、もしその人が僕を指示してしまったら、それこそ取り返しが付かなくなってしまう。

「さあ、用意はいいですか。番号をどうぞ〜〜!」

容赦なく司会者の声が響き渡る。


ど、どうしよう〜〜っ!!




恋愛心理 〜 前編 〜


「吉田くんに告白したんだ。明日返事もらうことになってる」
「そうなんだ。とうとう、頑張ったんだな!」
「うん、さっちんが付いてきてくれたから―――」

休み時間、そんな会話が耳に流れてきた。
別にめずらしくもない内容。
でも僕はこの類の話を聞くたび、「告白」なんてできる女の子の心臓ってどんなメカニズムになってるんだろうと不思議で仕方がなかった。

僕にだって、好きな人はいる。
だけど告白なんてきっと一生することはない。というか、できない。
それどころか、彼女達のように友達に相談したり協力を求めたり、そういうことすらできない。
だからその人が偶然僕を好きになってくれない限り、いや告白されない限り、彼と結ばれる事なんて絶対にない。


それは分かっていても、
可能性がものすごく低くなっても、
何れ訪れる時が別れを齎すとしても、

それでも自分から想いを告げるなんて、どう考えても無理だった。



あ、次は体育なんだ・・・


教室の窓から校庭へ目をやると、体操服を着た集団がちらほら出てくるのが見えた。
その中に彼がいる。
こうやって彼の知らないところから視線をずっと向けてきた。
でも彼は絶対気付いてないだろうな。
目が合いそうになると、自然に瞬きをしながら視線を外した。
わざとらしくならないように、まるで初めから見ていなかったかのように。
我ながらそういうことは得意だと自嘲的に笑えてくる。
せめて不器用にあたふたすることができたら、少しはアピールになっただろうか。
けれど気付かれるのさえ嫌だったのだから、そうしてしまうことに不服はなかった。




『ねぇ、ホントのこと答えてくれる?』
『なあに?』

まだ小学生の頃、行き成り親友に聞かれたことがある。

『周さ、春さんのこと好きでしょ?』

春さんってのは同じクラスにいた春木っていう男の子。
明るくて、賢くて、男子にも女子にも人気があった。
誰とでもざっくばらんに仲良くできる気のいい子。
好きとか嫌いとか関係なく、小学生の高学年にもなれば男の子のことはそれなりに意識するようになる。
ボーイッシュなんて言われていた僕も例外ではなかった。
春さんみたいなタイプはクラスに一人はいるだろう的な逸材だったが、席が隣になった時、親しい友達のように声をかけてくれたのが嬉しかった。

『なあ周、教科書忘れたんだ見せてくれよ』
『また忘れ物ぉー?学校来る前にちゃんと確かめなよ』
『へいへい。悪いないっつも』

春さんとは男女間に少し壁が出来始める年頃に、何の拘りもなくこんな会話ができることが楽しかった。
男の子は大抵僕のことを「不二」と呼ぶ。
だけど春さんは男同士で呼び合うように僕を「周」と呼んだ。
それが妙に心地よくて、僕だけに向けられたものではないことは分かっていながらも、
隣の席で接する機会が多い僕は、いつの間にか彼にとって特別な存在のように思えてならなかった。
春さんと話すのが楽しい。ずっと春さんの隣の席でいたい。
僕だって、馬鹿じゃない。この感情が恋だということを認識するのにそんなに時間はかからなかった。
そして、心のどこかで、春さんも僕が好きだといいなあと願っていた。


そんな気持ちがいつの間にか表れていたんだろう。
友達に春さんのことをまるで自分のことのようにいつも話していた。
春さんのことを言いたくて仕方がなかったのだ。
自分でも多少の自覚はあった。
けれど、だからと言ってこんなにはっきり問われるなんて思いもよらなかった。

『な、何で!?』

正直僕は狼狽えた。
春さんのことは好きだったけど、それを親友の前で認めるほどの勇気はない。
勇気っていうか、ただ恥ずかしかっただけだけど。
回りまわって春さんの耳に入るかもしれない・・どこかびくびくした気持ちがあった。
だって、春さんが僕を好きかなんて分からないから。
周りからもいつの間にか「仲がいい」なんて言われるようになってたけど、だからと言って決定的なものは何もない。
小学生だって真剣だ。
もし僕が春さんを好きだとばれて、春さんは違うかったら?ただの友達として接していただけだったら?
きっとこんな風にいい関係ではいられなくなる。
いくら春さんがざっくばらんな性格でも、そんな隔たりを越えてまで友達でいれるなんて思えないし、何よりも僕にだってプライドがあった。

『違うよ!全然違うよっ!やだなあ・・勘違いっ!」
『でも・・周はいつも春さんの話ばかりしてるし、嬉しそうだし・・ホントの事言ってよ』
『もうっ!いい加減にしてよ。隣の席で話す機会が多いだけだよ。ホントにそうだからっ』
『ふ・・・ん。なら別にいいけど・・』

親友は煮え切らない返事を残したが、それ以上は突っ込まなかった。
その日僕はずっとドキドキしていた。
やっぱり気付かれていた。そりゃそうかもしれない。
あれだけ毎日春さんのことばかり口にしてたんだもん。
逆の立場なら僕だって思う。
どうしよう!もっと自重しなきゃ。
咄嗟に思ったのは自分の気持ちを抑えることだった。

あの時「そうだよ」って認めることができたら今の僕は違ってただろうか。
もっと人を好きになることをオープンにできるようになってただろうか。

そんなことをふと思うけど、そんな自分を後悔してもいなかった。

親友から指摘を受けてから僕は春さんのことは人前で話さないように心がけた。
もちろん春さんのことは好きだったし、二人が仲がいいのは特に変わることはなかったけれど、所謂気をつけるという行動にでたわけだ。
けれどそれは間違いではなかったと気付いた瞬間があった。

2月14日、バレンタインデー。
小学生のそれは世の中のイベントごとに過ぎず、マジでそれを手段に恋人を作るなんて大袈裟な事を考えてる子は少ないと思うけど、何となく誰かにチョコを上げるという行為自体が女の子憧れだった。

『もうすぐバレンタインだなー。周、チョコくれよー』

春さんに会話の中でいつものように何気に言われて急に2月14日を意識し始めた。
告白はおろか友達からの指摘も誤魔化す僕が、春さんにチョコをあげるなんて考えもしていなかったけれど、その一言で状況が変わった。
どうやったら「好き」という気持ちを知られずにチョコをあげられるか?
そんなことを一生懸命考えた。
義理チョコ、そんな便利な名称のチョコレートがバレンタインには用意されている。
僕はすかさずソレだ!と思った。
内容もわざと気の張ったものではなく、スーパーやコンビニで普段から売られているアーモンドチョコを、3つ箱から取り出して小さな袋に簡単に包装した。
こっそりポケットに忍ばせて学校へ持って行き、渡す時の台詞も用意していた。

誰からも貰えなくて寂しいだろうから、家にあったチョコを持ってきてあげたよ!

あくまでもわざわざ買って用意したんじゃないを強調するような台詞だ。
けれどそのチョコがポケットから出されることはなかった。
タイミングがなかったのだ。
僕にチョコを渡す勇気がなかった。
それも多少はあったけど、「チョコくれよー」と言った春さんの言葉がただバレンタインに付属しただけのものだったということが分かったからだ。
本気で欲しいと思っていたのだったら、春さんの性格なら必ず言うはず。
 
なあ、チョコ持ってきてくれたかー?

本当はそう言われるのを僕はどこかで待っていた。
絶対言うって信じていた。

でもバレンタインなんてこっちが意識してるほど、春さんは何とも思ってなかったんだ。
チョコレートの話はおろか、その日がバレンタインなんだということすら頭になかったようだ。
今から思ったら、小学生なんてそんなものだろう。
愛とか恋とかさわぐのは精々ドラマや漫画の世界なだけで、実際はまだボールを蹴ったり、遊具で遊んだりしているわけだ。

でもその時は、何もなかったことが僕はショックだった。
帰り道、ポケットに入っていたチョコを自分の口に放り込んだ。
虚しいな・・そう思いながらもミルク味のチョコは美味しかった。
結局持っていった3つともそのまま一気に食べてしまった。



中学はそれまで通った地域の学校ではなく、僕は私立の青春学園に進んだ。
両親から進められたのはもちろんだったが、そこを受験した決定的な理由は秋くらいに春さんが青学に入りたいと話していたからだ。
バレンタイン事件(僕の中ではすでに事件化していた)の後だったら、もしかして普通に公立に進んだかもしれない。
進路は中学と言えど人生に影響することもある。
たかが小学生の恋愛ごときに左右されるなんてばからしいと笑えてくるが、子供にとって意地や見栄は立派な事情だった。
でも試験は既に終わっていて、二人とも青学進学は決まっていた。
結果的にはくだらない事で断念する前に青学に合格してよかった。

春さんは中学2年の時彼女ができた。


その頃はもうそれをショックと思うほど彼に執着はなかった。
おもちゃのような恋。
ネジが一本はずれたら、ばらばらと崩れだす。
まさにバレンタインがそのきっかけになっていた。
中学ではクラスも離れて、廊下ですれ違う、そんなことすら殆どなかった。
同じ学校へ行きたいと願って受験したのが笑えてしまうほどの事実だったが、それを腹立たしく思う以前に意識して考える事がなくなっていたのだ。

少しだけ気になったのは、春さんの彼女は一年の時の僕のクラスメイトで、入学してから色々な人から「不二さんと平田さんって似ているね」と言われた平田さんだった。
背の高さや体格、髪型が何となく似ていただけだが、平田さんはとっても綺麗な子で似ていると言われて僕はすごく光栄だった。
平田さんは性格も良くて僕は彼女が好きだったし、「似てる」がきっかけで話をするようになって、互いに「周ちゃん、可奈ちゃん」と呼び合うようになった。

2年になると可奈ちゃんともクラスは離れた。
自然と彼女と話す機会も減っていき、次第に可奈ちゃんとも接点がなくなった。
そんな時、春さんが可奈ちゃんと付き合ってると友達から聞かされた。
なんでも春さんが可奈ちゃんにベタぼれで「平田って可愛い」と臆面もなく口にしてることまで耳にした。
それを聞いて、少し可奈ちゃんが羨ましくは思ったけれど、悲しくて涙が出ることはなかった。
僕にはもう他に好きな人がいて、春さんへの恋はすでに風化された出来事になっていたからだ。

それでもちょっとだけ残念には思った。
可奈ちゃんと僕は似てるって皆は言うのに、春さんはどうして僕は好きになってくれなかったのかな。
可奈ちゃんと僕は何が違ったのかな。

今僕が好きな人も、いつかは僕じゃない人を選ぶ日がくるだろう。
だって、僕は彼に告白なんてできないから。
彼が僕を好きになってくれたら涙がでるほど嬉しいけど、そんなことは夢物語だ。
何となく春さんが僕ではなくて、僕と似ている平田さんを好きになったのは、彼女には僕にはない女の子の素直さとか可愛さとかそんな魅力があったんじゃないかって思った。
彼は僕がこんな気持ちで見つめているなんてことは絶対知らないだろうし、僕に女の子の魅力を感じているとも思えない。そもそもそんなもの持ち合わせていない。
だから彼がいつか恋人を作るときは、春さんと同じように僕がもう彼に対して恋愛感情がなくなってからだといいと思う。
試合放棄みたいで卑怯かもしれないけど、僕の人生だし、誰に文句を言われる事でもない。
見つめているだけでいい。
いつか学校を卒業したら自然に忘れる日が来る。それでいい。



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あれ?手塚くんはどこ・・?
ちなみにこの話、前編は結構ノンフィクションだったりします。