IINAZUKE!3
「手塚、ちょ、ちょっといいかな。」
勢い込んで来た割には実際手塚を前にするとやはり少々怯んでしまう。
「何だ?不二」
「うん。あのさ・・・」
と言いかけたが、内容が内容なだけにさすがに教室前の廊下で話すには抵抗を感じる。
「どうした?」
「あ、えっとやっぱり落ち着いたところで話せないかな。出来ればあまり人がいない方がいいんだけど・・・」
「別に構わないが、それでは昼を一緒にどうだ?今日はあまり天気がよくないからな。屋上が空いてるだろう。」
「あ、うん。それでいいよ。じゃあ僕お昼休みに呼びに来るね。」
「いや、俺が迎えに行こう。」
「・・?でも、階段は1組の横だし君がわざわざ来なくても・・」
「だが、普通そういうものではないのか?」
「・・・何が?」
「恋人は男が迎えに行くものだろう。」
「別にそんなの逆だっていいんじゃ・・・・」って誰が恋人だっ!!
「ね、ねぇ手塚・・?」
「何だ?」
「僕達って、と・も・だ・ち・・だよね〜」友達の部分をわざと強調して言ってみる。
「もちろんだ。お前は大切な部の仲間でかけがえのない友人だ。」
「うん、うん。そうだよね。僕にとっても君は大切なと・も・だ・ちだよ〜。」
手塚に友達と言われた事がこんなにも嬉しいなんて、この際友達なんて言わず親友になりましょと不二は心の中で言ってみた。・・・・が
「そして、何にも変えられない愛しい許嫁だ。」
最後に付け足された台詞が一瞬にして不二の喜びを裏切る。
立ったまま気を失う事30秒・・・
「おい、不二?」手塚に名前を呼ばれてハッとする。
「い、い、許婚って、君意味分かって言ってるの!?」
「それくらい知っているぞ。簡単に言えばフィアンセのことだ。」
「だ〜〜〜〜そういう意味じゃな〜い!!僕が意味分かってるかって言った意味は許嫁という単語の意味じゃなくて君の言葉全体の意味が意味する事で・・・・・・・」
「意味、意味、と新手の早口言葉か?よく舌がまわるな。」
「・・・あ〜、その、とにかく!!昼休み僕が迎えに来るからね!!ちゃんと話しよう。ちゃんと!!」
「ああ、いいぞ。お前の頼みなら何でも聞いてやる。」
不二の体中を何かに取憑かれたような悪寒が駆け抜けた。あの手塚が微妙に赤いような・・・て、照れてるとかいうんじゃないだろな〜。
覚束無い足取りでフラフラ組まで戻り、3つ目の腫れが額に追加された。
またしても教室のドアを開けずに突進したのだった。
×××××××××××××
昼休み不二は手塚に迎えに来させてはならぬと弁当を鷲掴みにして猛ダッシュで1組へ向かった。
「早かったな・・何だ?走ってきたのか」
息も絶え絶えにやって来た不二を見て手塚が言う。
「そんなに急いで来なくても、俺はちゃんと待ってるぞ。」
「い、いやでも・・君が来る・・前に・・って・・・」
「気持ちは嬉しいが、廊下を全速力で走るのは良くないぞ。そんなに焦らなくても何処にも行きはしない。お前が迎えに来ると言ったんだから・・。」
「いや、別に焦ってる訳では・・ないんですけど・・」
自分が急いできた事をまた都合のいい解釈をされてるのではないかとかなりの不安を抱きながらも何をどう説明すればいいのやらさっぱり言葉にならなかった。
「いやまあ、とにかく上行かない?」
手塚を促し、後は屋上での話し合いに賭けるしかないと不二は精神を集中させた。
新緑の季節とは言え、梅雨を間近に控えたこの頃少し日が翳るだけで肌寒さを感じる。今日は朝から雲行きが怪しく、今にも降り出しそうな気配だ。
当然といえば当然だがこんな日の屋上は人気がなく、凄然とした雰囲気が漂っている。普段菊丸と賑やかに昼食を取ってる不二は、その静けさがどうもぎこちなく落ち着かない。隣にいる人間も楽しい雰囲気とは聊かかけ離れた存在である。
しかし、これから彼に話そうとしている事は内容が内容という事もあり、人気がないのは反って不二にとっては好都合とも言える。
ただ手塚にとってもある意味好都合であるわけだが。
本題に入る前に取り合えず昼食を取ることにした不二と手塚は手すりのある縁に腰を下ろし弁当を広げた。
手塚とは日頃から友人としての付き合いはあるもののこんな風に2人きりで話をするなどテニスの事以外では殆どない。
何となくぎこちなさを感じそわそわしてしまう。
(なんか緊張するなあ・・・)
そんな事を思いながらどう切り出したものかと必死で言葉を探していると手塚のほうから話しかけてきた。
「さっきも思ったのだが、何だ?その額の腫れは」
英二でさえすぐ気がついたのだ。手塚が分からないはずないと思ってはいたが何だか面白くない。
「別に、ちょっとぶつけただけ・・」何気に不機嫌な口調になる。
「ちょっとぶつけただけでそんなに腫れるのか?しかも一箇所ではないじゃないか?」
(一体誰のせいだと思ってるんだよ・・)
「ホントにたいした事ないから・・部活にもちゃんと出るし君が気にする事じゃないよ。」
「それならいいが、・・その、気を付けてくれ。もし、後に残るようなことにでもなったら・・・・」
手塚の大きな左手が不二の前髪を掻き分けそっと額に触れた。
・・・・・・・え?
いきなりのその行動に思わず不二は戸惑ってしまう。愛しいものを撫でるかのような優しい感触、手塚の眼差しは不二を心底いたわる様な。
「て・づか・・」
・・・・なんて優しい目。
暫く不二は目の前の手塚に見とれていたが、箸で掴んでいた玉子焼きがぽとりと落ちてハッと我に帰った。首を左右にぶんぶん振って頭を必死で白紙に戻そうとする。
ぼ、僕は何を見惚れてるんだ!!思わず顔が紅潮する。えっと何だっけ?そ、そう話!!僕らが許婚同士だなんてとんでもない馬鹿な話、一体どうしたらいいか相談を・・・・・・・って、手塚は承知してるんだっけ・・えっと・・・だからなんで承知するの?ってかなんで承知できるの?って話っだたよな。とにかくそう、まず落ち着け!落ち着かなきゃ・・・・・
不覚にも手塚にドキリとしてしまった自分にショックを受けながらも必死で冷静さを取り戻そうと自問自答を繰り返す。
「何を一人でぶつぶつ言っている?」
あれこれ考えても仕方ない。この際単刀直入に聞くのが一番いいかもしれない。
「ねぇ手塚!君何で僕と婚約したいわけ?」
「は?」
いきなりすぎたかな・・・
「つまりさ、昨日父さんが僕には許婚がいて、それが手塚で・・何でかうちでは結構盛り上がっちゃってるみたいで、君を連れて来いとか言い出して、でも僕にはさっぱり分からなくて、どうしていいのか君の気持ちも・・」
手塚は微妙に笑みを浮かべ、まるで不二を安心させるかのごとく優しげな口調で
「何かと思ったら・・そんなに心配しなくても遠慮なくお邪魔させてもらう。」
(そうじゃないでしょ、手塚様!)
「い、いやそういうことではなくて、君疑問に思わないの?」
「・・・疑問?」
「そうだよ!家同士がご先祖様からの縁であろうとなんで僕らが許婚になるの?」
「お前、昨日初めて聞いたのか?」
「そう。びっくりしておでこ、こんなになっちゃったんだからね。」
「そうなのか?それは・・・すまない。」
「あ、そんな・・違うよ、ぶつけたのは僕の不注意なんだし・・君が謝ることじゃ・・ごめん。」
本当にすまなそうにする手塚に罪悪感を覚え、つい謝ってしまう不二。
「確かに急にだと驚くのも無理ないかもしれない。」
「手塚は知ってたの?」
「ああ、幼い頃から祖父が言っていたからな。相手がお前と知ったのはごく最近だが・・」
「それで、それで手塚は何であっさり受け入れられるわけ?自分の気持ちとかどうでもいいってこと?」
不二にはどうしても分からなかった。例え幼い頃から聞かされていたとしても受け入れられるものとそうでないものはあるだろう・・。百歩譲って許嫁がいることはよしとして、相手を聞いた時点で普通は考え直さないだろうか?
「まさか、手塚の意見など全く通らないような厳しいお家なの?」
「そんな事はない。祖父は厳しい人だが子供の頃から一人の人間として尊重してくれていた。父も母もそうだ。両親は特に厳しくもないがな。許嫁の件は確かに祖父も父もご先祖に報いる事が出来なかったことを申し訳なく思い俺に叶えて貰いたいと口にはしていたが、決して無理強いはされてはいない。それに誰でもいいというわけないだろう。俺にだって選ぶ権利くらいある。」
「でも、それなら何で?これまでの流れから行くとさ、僕は手塚がこの話を承諾しているようにしか思えないんだけど・・」
「もちろん、承諾しているぞ。」
至極当然という態度で答えた手塚。
「はぁ?」
つまり許嫁はいるが嫌ならやめてもいいということで、手塚自身も相手次第と思っていた訳で、なのにOKするという事は・・・まさかこの僕が見初められてるって事か〜〜〜?
「あの〜ちょっとお尋ねしますが、その、なんで承諾されてるんでしょう・・・?」
「愚問だな。相手がお前だからに決まってるだろう。」
ぐわっしゃあ〜ん!!どっか〜ん!!!・・・・・・・・ガラガラガラ
不二の頭の中で何かが破裂して崩れていく音が確かに聞こえた。4つも腫れを作ってなるものかと必死で途切れそうな意識を繋ぎとめる。
「ちょっ、ちょっと待ってよ!!この際ハッキリ言うけど僕としてはこのまま、はいそうですか。とは言えないよ!」
「・・・・・・そ・・うなのか?」
「そうだよ!普通そうに決まってるでしょ!!」
「・・・・・・・・・」
急に手塚が黙ってしまい気まずい雰囲気が漂う。
(う、そんな顔されたら・・・)
自分の放った言葉のせいか無言で少し俯き加減の手塚にちょっぴり罪悪感を覚えながらもここで怯んでは元も子もないと不二は唇をぐっと合わせたままをじっと手塚を見据えた。
「・・・・・お前は俺が嫌いか?」
「そ、そうじゃないよ。嫌いだなんて・・」
「他に好きなる奴でもいるのか?」
「いや、そんな人・・いないけど・・・そういうことじゃなくて!」
手塚の言葉に不二は大きく溜息をついた。
(この人ホントに分かんないのかな・・?)
「君がどうこうっていう問題じゃないよ。いい?結婚とか婚約とかそういうことの前に問題点があるでしょ。僕たちはね・・・」
「男同士だからとでも言うのか?」
思わず自分の台詞を代弁されて唖然とする。
わ、分かっているではないか?
「何だ。そんな事を気にしていたのか?」
(何だ、だと?気にするだろう、普通。)
何だか急に腹が立ってきて、きっと凄い形相をしているだろうが微笑む余裕など微塵もない。わなわな肩を震わしながら
「あのねぇ、君!!何落ち着いてんのさ!!分かってんならこれまでの長い前置きは何だったんだ。」
「何をいきり立ってるのか分からないが、男とか女とかそんなに重要な問題か?」
(重要な問題だよ!)
「君さあ、頭おかしくなっちゃったんじゃないの?重要な問題か?ってクレッションマーク付けるほど疑問なことか!世の中にはね、常識ってものがあるんだよ。」
「恋愛に常識もへったくれもない。好きなものは好きなのだ。」
(お、おい、どさくさに紛れて何告ってんだよ。)
「そんな台詞堂々と言わないでよ。恋愛も何も僕たちは友人でしょう?」
「けれど、お前は俺の事が嫌いではないのだろう?」
「嫌いじゃないよ。でも、」
「なら、問題ない。初めは友人同士でも付き合っていくうちに恋愛に発展する可能性は充分にある。」
「だから僕らは男同士なんだってば。恋愛に発展するなんてあり得ないんだよ。」
「なあ、不二俺は色恋沙汰に男も女もないと思っている。愛は性別をも超える。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
―――――――絶句。
口をパクパク動かしてみるが言葉が一つも出てこない。
マジ?これは現実?目の前にいるのは本当にあの手塚国光なのか・・・?そんな疑問が頭を駆け巡る。この状況がさっぱり理解できないまま、何処に視線をもっていく訳でもなく不二は呆然と立ち尽くしていた。殆んど意識朦朧状態である。
「不二?」
「・・・・」
「おい、不二っ!」
「・・・え?・・はい?」
手塚の呼ぶ声でぼんやり覚醒したが思考回路はストップしたままで・・。
「予鈴がなったぞ。さっさと片付けて早く教室へもどろう。」
「ああ・・・。」
そういえば、まだお弁当も食べ終えてなかったっけ。お腹空くだろうな・・。
人間、空白状態になると冷静になるのだろうか。空腹で部活までやり過ごすのはきついなとふと過ぎった。
「いくぞ。」とさっと歩き出した手塚に不二も続く。
ぼんやり俯いていたので手塚が急に止まったのも気付かずそのまま背中に衝突した。
「わっぷ!!」驚いて顔を上げた瞬間・・・
・・・・・え?・・・・何?・・・・なんで手塚の顔がこんな近くにあるの?視界がぼやけるほどに間近にある手塚の眼・・鼻同士が旨くぶつからないようずれて重なる。まるでぴったりはまったジクソーパズルのよう。
自分が今何をしてるのか、何をされてるのか、現実なのか夢なのか無意識にその事態を把握しようとして、瞼を閉じたり開けたりひたすら繰り返していた。
やがて手塚の顔がゆっくり離れぼやけた焦点が定まっていく。同時に不二の思考も徐々にクリアになり、
何?・・これってもしかしてキ・・スってや・・つ?
「・・う・・・・そ?・・」
嘘ではない。確かに今自分は目の前の男とキスをした。その事実だけが頭の中をぐるぐる回る。何がなんだか分からない。キスをするまで何をしていた?どういう経緯でそうなった?僕たちって友人?恋人?許婚・・・?そういう事する関係だったっけ?
何がなんだか分からない。
分からないけど――――
キスしたんだ・・・。
手塚は一言、「行くぞ・・」と残して踵を返し階下へ降りていく。
その後姿を見送って不二は暫く呆然と立ち竦んでいた。
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手塚と不二くんが2人きりで話をすることなどテニス以外では殆どない・・なんて書いてすみません(~_~;)
アニプリでまさかあんな展開になるとは思わなかったんだもの〜〜〜(撃沈)