LOVE ATTACK11



暖かな春の日差しの下、不二の心もぽっかぽか。
視線の先には大好きな手塚の姿。
しかも彼も今自分だけを見つめている。

そう、まさに二人は一つの球を追いかけて、恋のワンツーリターンを繰り返しているのだ。

「不二、逆サイドががら空きだぞ」
「えっ?」

再びラケットにヒットするはずのボールが左斜め後ろに突き刺さった。

女相手にも容赦ない手塚国光。
不二が幸せのラリーを堪能してることなんて全くもってお構いなしだ。
少しの隙でも見つけるとびしばし決めてくる。
普段ならそう易々と隙など見せない不二だが、何と言っても今は手塚が相手である。
一心に球を追いかけているのではない。一心に手塚を追いかけているのだ。

「ゲームセット!ウォンバイ手塚」

結果は歴然。手塚の圧勝だ。
いくら男女の差はあるとはいえ、あの不二がワンゲームも取れないなんて。

「もうちょっと真面目にテニスやったらどうっすか?」

むっと唇を尖らせて面白くないのは越前リョーマ。
越前はある意味不二のあの凛乎たるプレイスタイルに惚れたのだ。
球を睨みつける鋭い視線、相手がどんな奴であろうと決して怯むことなく、寧ろそれを取って食うかのように自分の力に吸い込んでいく。
そう、相手がどんな奴であろうともだ。
それが・・・。
やはり不二にとって手塚は特別なのか。
こうも見事にテニスへの集中力を欠いてくれるとは。
まさに手塚ゾーン、反対に吸い込まれてるではないか。

「だって・・」

しかも自覚あるし・・・。
手塚を目の前にしたらあの不二もただの女の子になってしまうのだ。
そう。越前が不満なのはむしろそこだ。
テニスにおいては他の誰より一歩も二歩も先を歩いているような天才が、手塚の前だとその辺の女子となんら変わらず頬を染めてくねくねしてしまう。
そんな風に可愛くなってしまうことが越前は悔しいのである。

「ちぇっ」

つまんないの。
今の自分は不二にそんな顔をさせる事は出来ない。
不二への想いは手塚よりもずっとずっと強いのに。
ぶっと不貞腐れたまま挑むような視線を手塚に投げる。
どう足掻いたって今は手塚に分があるのは間違いない。
それなら少しでも手塚を超える何かがなければ勝ち目はない。

「部長、今度は俺の相手してよ」

正直、手塚にはまだテニスでも適わない。
けれど基本的に手塚と越前のテニスは違う。
手塚より不二の目に留まる何かがあればいいのだ。
手塚は確かに中学生とは思えない顔、じゃなかった技量を持っているがはっきり言って地味だ!
その点越前は大会ごとに緒戦でわざわざ右手で振舞ってから左に持ち替え、「サ、サウスポー!?」」と観客に言わせてアピールする。
伊武戦、日吉戦、田仁志戦、そう言えば佐々部や桃城の試合でもやっていた。
周りもいい加減知ってるだろうに、サービス満点の驚きっぷりである。
加えて、コート内で両足でのスライディング。
あれは決してテニス用ローラースニーカーを履いているわけではない。
越前の努力と才能なのである。
極めつけ!竜巻をおこして対戦相手を遠くに飛ばすこともできるのだ。
ま、まあ手塚はたまに恐竜呼び起こして核爆弾落とす事もあるみたいだけど、
見目どおり性格も大人っぽいみたいだし、3回ほど場外に飛ばした後は大人しくしておけば、地球を破滅に追い込むまではしないだろう。

ってことで、次は手塚と越前のシングルスが始まった。

さすが手塚だ。
越前のツイストサーブも跳ね際をたたいて軽く返してしまう。
ドライブBを打ち込めそうな返球もない。
と言って、スマッシュがうち頃のロブをあげることなどもっとない。
悉く越前の技は封じ込まれているわけだ。

「くっ!」

単純なリターンでは軽々と手塚の下へ吸い込まれていく。
このままではますます不二も吸い込まれてしまう。

「うぉぉぉぉおぉお〜!!」

越前がラケットに右手を添える。
全ては不二を手に入れるため!
渾身の力を込めて球を放ったのだ。
しかし、その球もブラックホールなみの手塚ゾーンに吸い込まれ・・・・なかった。
球は手塚の方に操られるかのように曲がっていったが途中で力尽きたかのようにコートに落ちたのだ。

「―――――っし!!」

クールな越前も大きくガッツポーズ!
ちらと不二を見遣るといつもよりほんの少し目を見開いて驚きの表情を見せている。
これはひょっとしてちょっとは自分の力を認めてもらえたかも。
結果は手塚の勝利。けれど越前は満足だった。
一つでもいい、自分の存在を自分の力を認めてもらえればそれで前進だ。
焦らずゆっくりと!越前にしては聊か慎重であるがそれだけターゲットが大きいということだ。

休日テニス、当初の予定が大きく変わってしまったが得たものはあった。
そう慰めて越前の今日の不二とのテニスでデートが終わった。

「また来て下さい」
「うん!必ず!!」

満面の笑みで答える不二を見て、越前はついにやけそうになる。
越前はそこに手塚が入っている事をまだ知らない。



×××××××××



仲間達が皆それぞれの方向へ散っていく。
最後に残ったのは手塚と不二。しかし二人っきりも束の間。
分かれ道に差し掛かった。

「じゃあここで」

愛想のない挨拶はいつもの事。
自分の向かうべき道にさっさと歩き出す手塚を不二が呼び止めた。

「待って、手塚」

振り返ると夕暮れのオレンジが不二の頬を染めている。

「何だ?」
「あのさ・・・」

何時になく深刻な面持ちの不二。
反射した光に落とされた長い睫の影が揺れる。
不二は真直ぐ手塚を見つめなおして静かに言った。


「君、・・・腕どうかした?」



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今はまだ春です。
田仁志くんとかまだ出てない時期で、時間軸を考えると???なんですが、そこはお気になさらず!(えぇ!?)