LOVE ATTACK15 「はい」 「ふ、不二と申しますが、手塚君いらっしゃいますか?」 「国光?ちょっと待って頂戴ね」 インターホンごしに聞こえたのは、しっとりと優しげな声。 ほんの少しの応対でも、安心を誘うような暖かい響きだった。 国光と呼ぶからにはきっと手塚のお母さんだろう。 声だけで言うのもなんだけど、おおよそ手塚とは結びつかない趣があるというか。 しかし、目の前に現れたのはいつもの仏頂面だった。 手塚を呼んでくれと言ったのだから当たり前だが、ほっとしていた矢先に、行き成りこの無愛想な面が現れると、再び緊張で喉が鳴る。 「あ、あの・・」 「こんな時間にどうした?」 こんな時間と言われてはっとする。 慌てて右手首を見ると、ちょうど7時を回ったところだった。 「もしかして食事中だった?」 「ああ」 勢いで何も考えず来てしまったが、食事時に他人の家を訪ねるなんて迷惑極まりない事だ。 「ご、ごめんなさい!大石に来週練習試合があるって聞いて、それで・・・」 手塚の眉間がきゅっと縮まって、不機嫌な顔付きになる。 不二が何をしに来たのか察したようだ。 「そんなことでわざわざ来たのか」 「そんなことって!!・・・・」 自分の腕の状態分かっていて、どうしてそんな無茶をするのか。 きつく問いただそうと思ったが、「わざわざ」に反論できず言葉を飲み込んだ。 考えたら、電話でもいいと言われたらそれまでの事。 非常識な時間にやって来て、食事を中断させてしまった事を思えば、えらそうなことは言えない。 続きを話すこともできず、かと言って今更引く事もできず、不二はしゅんと俯いてしまう。 「話すことがないならもういいか?」 暫く続いた無言状態に、手塚の方から終止符を打つ。 自分からやって来ておいて、話すきっかけを見失ってしまった。 「う・・うん。食事中ごめん」 そう言って、踵を返そうとした時、 「いつまでもこんなとこで話してないで、上がってもらったらどうなの?」 さっきの優しい声の主が玄関から出てきた。 「ごめんなさいね。この子ったら気が効かないんだから。さ、上がって頂戴」 そっと不二の肩に手をやって自然に家の方へ導いてくれる。 「あ、いえ僕・・わたし・・こんな時間にすみませんっ。もう帰りますので」 「あら、うちなら気にしなくていいのよ。ねぇ、国光?」 実の母に同意を求められても、当の手塚はきゅっと唇を引き結んだまま。 迷惑そう・・・ ちらっと横目に映ったその姿に、益々これ以上ここにいるのが憚られる。 「すみません、ほんとに、これで・・」 「もうっ!あなたがそんなだから気になるんでしょ。不二さんって言ったわね、こんなのは放っておいて、さあどうぞ」 頭を下げて遠慮する不二を見て母は息子を一喝し、にっこり笑顔を向けてくれるが、手塚の不機嫌そうな顔を尻目に「はい、どうも」と上がりこむ訳にはいかない。 そもそも手塚に話があって来たわけで、それが成立しないと意味もない。 だがこんな状況でお邪魔したところで何が話せようか。 「あ、ありがとうございます。でもお気持ちだけでっ!」 「そんなに遠慮して、国光のせいね。でも大丈夫よ!この子の顔はある意味生まれつきで、持病と同じなんだから。気にする事ないわ」 「ぶっ・・・い、いえ、そんな・・・」 自分の息子を捕まえて対外な事を言う。 真面目に言い切ったその台詞に思わず噴出しそうになるが、すぐ横にあるオーラを感じてしまえば笑うなんて命知らずも甚だしい。 「時間を考えるべきでした。お食事中本当にごめんなさい」 もう一度不二は深々と頭を下げる。 ここはきっぱりと引くべきところだろう。 そう、手塚は食事中なんだから!食事中、食事、食・・・ 『ぐぅ〜・・きゅるるるるるる〜・・・』 食を欲しているお腹が元気よく返事をした。 「や、やだ、ばかっ、もう!」 お腹に文句を言っても仕方ないのだが、真っ赤な顔でぽかぽかとそれを叩く。 「ふふっ、お腹すくのは元気な証拠よ。ね、本当に遠慮しないで。ご飯一緒に食べましょうよ」 「そっ、そういうわけには・・・」 身体の前で両手を振って『いけません』のポーズをとるが、既に不二の背中に手を添えて歩き出す手塚の母。 「お、おば様っ?・・・、ねぇ、手塚っ!」 手塚の態度も不二の遠慮も我関せずとマイペースな彼女にどうしていいものか。 手塚に答えを求めるのもどうかと思うが、そこしか頼るところもなく不二は手塚の名前を呼んだ。 しかし手塚が口を挟む間もなく 「嬉しいわ!久々に楽しい食事になるわね、国光」 にこにこと先手を打つ母に、手塚は重たい溜息を一つ洩らし、 「言い出したら聞かないんだ。迷惑でなければ食べていってくれ」 「迷惑だなんて・・・」 それはこっちの台詞なわけで。 自分が蒔いた種とはいえ、こんな展開になろうとは。 ホントにいいの・・・・かなぁ? next / back |