LOVE ATTACK21

熱いくらい太陽が照りつける晴天の中、青学と六角の練習試合が始まった。
千葉の古豪と言われているだけあり、六角中はかなりの実力者揃いだ。
両者一歩も譲らず、練習試合とはいえ、かなり白熱した試合展開だ。
ダブルス2はいいところまで食らいつくも惜しくも敗退。
続くダブルス1、ゴールデンペアの活躍で今度は青学の勝利。
両者引き分けの状態でシングルスに突入する。
不二もフェンス越しに固唾を呑んで経過を見守っていた。

シングルス3、いよいよ期待のルーキーの登場だ。

「越前っ!肩を落として楽にね、楽〜に!!」

いくら越前が「一年生にして驚異的な強さを誇る」と言っても、六角は昨年全国へ行ったチーム、簡単に勝てる相手ではない。
越前もそれなりに情報は得ているだろう。
いつもは強気で生意気な彼もそこは一年生。それなりに緊張しているはず。
不二は少しでも張り詰めた糸を緩めてやろうと声を掛けてやる。

「俺・・大丈夫かなあ、先輩?」

フェンス越しに不二を見上げるような視線を送り、頼りなげな台詞を吐く越前。
やはりいつもの彼とは違う。

「何言ってんの。ほら、リラックスして!君は強いんだからいつも通りやれば絶対大丈夫!ね?」
「でも・・・」

こんな時に越前には悪いけれど、何だかすごく母性本能が擽られる。

可愛い・・・

不二はもともと弟的存在には弱いところがある。
普段えらそうにしていても、何かあるときは泣きついてくるような、ちょっぴり脆い面を持ち合わせていたりすると完全ノックアウトだ。

「こんなにたくさんの人が君を応援してるんだよ。ね、君は一人じゃない」
「先輩も?」
「当たり前じゃない!君と一緒に戦ってる」
「じゃあ、もし俺が勝ったらご褒美くれる?」
「ご、ご褒美!?ベ、別にいいけど・・・何が欲しいの?」

結構無理矢理なこじ付けのように思うが、今は越前の気を少しでも高めてやりたい。

「デート!!だってこの間のテニスも有耶無耶になっちゃったし」
「いいよ。君の行きたいとこ付き合ってあげる。だから、頑張っておいで」
「うぃーっす」

少しは元気出たかな・・くすっと笑みを洩らし、ラットを持ってコートに入る越前を見守る。
何だかんだ言ってもやっぱり一年生だなあ。
手塚と同じように入部早々から期待されて、その実力も期待を裏切らない。
同じオールラウンダー、同じ左利き、青学の柱とそれを継ぐ者。
越前を見てると手塚を感じる事がとても多いのに――

手塚もあれくらい可愛げがあったらもうちょっと取っ付きやすいのになあ・・・

似てるようで似てない二人、不二は心の中でため息を吐く。
素直じゃない手塚。
以前に比べると随分心を許してくれるようにはなったものの、全てを曝け出すことはしない。
どこかで一線を引いているのが分かる。
情けなくてもいい、頼りなくてもいい、辛い時は辛いと泣きついてくれる方がずっといいのに・・・

「先輩!・・不二先輩っ!」
「・・・あれ、越前・・え?・・試合は?」
「とっくに終わったよ。一緒に戦ってるとか言ってたわりに全然見てないよね」
「・・だって、まだ15分も・・・まさか、負けちゃったの?」
「はぁ〜?んなわけないじゃん」

片手をポケットに突っ込んで、もう片方の手の指でトレードマークのキャップをくるくる回しているその姿からは先刻のあの謙虚な様子は皆目伺えず。

「だって君、あんなに緊張して―――」
「俺が?先輩面白いこと言うね。まあ、そんなことどうでもいいんだけど、ちゃんとデートしてよね」

回していた帽子をパシッとキャッチして

「確か、約束は守る性質だったよね?」

にやりと笑って帽子を掲げメンバーの許へ歩いていく。

ガシャンッ―――

不二は目の前のフェンスを思いっきり掴んだが越前に届くはずもなく。
越前は何食わぬ様子でさっさと行ってしまった。

やられた・・・。
可愛い?相当のたぬきじゃないか!
何が「俺・・大丈夫かなあ」だ!!平気も平気、しゃらっとしすぎだ、あの野郎。
ちょっとはドキドキくらいするのが一年ってものだろう?
15分かからなかっただとぉ〜〜!?

「かっわいくな〜〜い!!」


大声で叫んでみても時すでに遅し。
「一年生にして驚異的強さを誇る」と称えられてる越前リョーマ。
驚異的なのはテニスだけではないようだ。
まさに・・・ウォンバイ越前である。

ともあれ、順調に勝ち星を得た青学は、その波にのりシングルス2も勝利した。
公式戦ならばそれで終了。ダブルス、シングルス共に3試合取れば試合はそこで終わるのだ。
だが、これは練習試合。普段接触のない他校と交わる事によって互いのスキルを高めようというのが本来の目的だ。
残り一試合、シングルス1は当然行われる。
コートを囲むギャラリーから歓声が沸いた。

「手塚・・・」

純白のラケットを持ち静かにコートへ向かう姿は神々しいほどのオーラを纏う。
さすがにその貫禄には不二も圧倒されるものがある。
いや、本来そんな手塚を好きになったのだ。
あの日、コートでサーブを打つ手塚が凄く眩しくて、その凛とした瞳に吸い込まれそうになった。
今も同じ。手塚はあの日と同じ眼をしている。
左腕は悲鳴をあげているというのに。
そんなことは微塵も感じさせず、揺ぎ無い姿勢でコートに立つ。
対する相手は不二の幼馴染、佐伯虎次郎。

終わらせたくない。
手塚のテニスをこんなとこで終わらせるわけにはいかない。
僕が守ってあげる。だから―――

「頑張れ・・」

祈るように小さく呟いた不二の声は、声援の中に消えていく。

「ザ・ベスト・オブ、ワンセットマッチ 手塚サービスプレイ」

審判の声と共に、黄色いボールが空中へ放たれる。
刹那、ラケットに鋭く弾かれてそれは相手コートへ突き刺さった。


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