LOVE ATTACK24 「どうせ、不二は行かないもんにゃ!」 最近は手塚とばっかり!と口を斜めに尖がらせてわざと聞こえよがしに不平を垂れる。 腐れ縁とはこのことか、一年の時からずっと同じクラスの菊丸とは、異性でありながらも親友を張ってられる仲だ。 男女の違いこそあれ部活も同じとなれば当然プライベートでも行動を共にすることは多かった。 けれどここ連日の不二の付き合いの悪さ。練習終了後は必然と手塚のところへ行く事が日課になっていた。 彼の腕のことを誰かに知られるわけにもいかない。何故と問われても不二は適当な言い訳で誤魔化すしかなかった。 釈然としない不二の行動。当然菊丸は面白くない。 部活後、気の合う者で軽く食事に行こうと話しているのを不二も聞いていた。 誘ったところで今日もNOだろうと踏んだ菊丸は、大事な親友を手塚に持っていかれた腹いせに軽く厭味を飛ばしたのである。 不二が手塚を好きな事は知っている。 でも何も親友のポジションまで奪う事ないじゃん! と、それは明らかに手塚に向けた感情であるのだが、面と向かって言える相手でもなく、結局は不二に当たってしまう。 「行かないなんて言ってないけど」 「ほへ?」 予想外の不二の答え。 当然「ごめんね」と返ってくると思ったのに。 「なんで?」 嬉しい反面拍子抜けしてしまう。不服全開だったわりにその疑問を口にするところは菊丸らしい。 「なんでって、僕が行ったら迷惑なの?」 「そうじゃないけどさ。手塚は?」 手塚という名に一瞬チクリと痛みが走った。けれど―――、 「手塚?なんで手塚が出てくるの?」 「だってここ最近ずっと手塚と一緒だったじゃん。不二はその・・・ずっと手塚のことが好きだったし・・・そういうことかなあって」 上目遣いに何となく言い辛そうにもごもご喋る菊丸に不二は笑い声を飛ばした。 「あはは!僕と手塚がくっついちゃったとか思ってた?」 「違うのか?」 「やだなあ、そんなわけないじゃん!自主練のメニューを組むのにさ、ちょっと男子を参考にしようと思って手塚に色々聞いてただけだよ」 もちろんそれは体のいい嘘。 けれど本当のことを言うわけにもいかない。それにもう・・・ 「もう僕ができることないの。だから今日から手塚のとこには行かない」 「・・・?全部教えてもらったってこと?」 「まあ、そんなとこ。だからこれからはいっぱい付き合ったげる」 ね、と笑いながら不二は菊丸の腕を取り、向こうで待ってる仲間の方へ向かう。 「そっかぁ」 「うん。やっぱり英二達とこうしているのが一番楽しいなあ」 どことなくホッとしている自分が分かる。久しぶりに解放された気分だった。 手塚といるのは嬉しかったが、本音を言うと緊張もした。 張り詰めた空気、言い寄らぬ不安、そして何もできない自分へのもどかしさ。 いろいろな柵に雁字搦めになっていた。 そんな束縛から解けて、もう胸が疼くような不快感に襲われる事もないと思えば、その方が自分自身もすっきりする気がした。 これでいい。このまま無茶をする手塚を見続けるのはきっと辛い。 近くにいるのに届かぬ想いをもち続ける事にも、 いつか耐えられない日がきっと来る。 諦めよう。 どんなに脈がなくても今は考えたくなかったけれど。 どうせいつかって覚悟している自分もいた。 手塚に僕は必要ない―――。 一度信用をなくした自分を好きになってもらえる可能性なんてない。 どうせ届かぬ想いなら諦めるのが一番いい。 手塚にとっても、自分にとっても。 「どうしたんすか?ぼんやりして」 急に振られた声に「え?」と顔を上げれば、いつも生意気すぎるほどの自信家の彼。 けれど今日はいつもと違って何故か心配そうな顔つきだ。 どうしたの?と問うより先に越前の方が口を開いた。 「疲れてんなら帰ったら?無理して付き合うことないよ」 「そんなこと・・・」 「・・・っ!」 そんなことないと言い切る手前で、まるで身体の中の芯が抜き取られたように、不二はがっくり足元から崩れていった。 「先輩!」 「不二〜ぃ!!」 少し前を歩いていた菊丸と桃城が驚いて駆け寄ってくる。 越前にがっしり腕を支えられて間一髪のところで地面に落ちなかったものの、足に力が入らずほとんど越前にぶら下がっている状態だった。 「僕・・あれ、どうしちゃったんだろう?」 「真っ青っすよ、顔」 そう言われて自分の顔にそっと手を当ててみる。 特に意識はしていなかったが、そう言えばほんの少しくらくらするような・・・ 「不二ー、具合悪かったのか?ごめん、俺があんな事言ったから・・・」 目の前の不二の様子にオロオロする菊丸。 不二はそんな親友に何とか笑ってみせる。 「違うよ、さっきまで何ともなかったの。今も・・・正直なんで立てないのか・・よく分かんな・・・」 だんだん息が荒くなって言葉も途切れがちだ。 「わぁー、もう喋んなくていいから!と、とにかく早く帰らないと!」 人間は窮地に追い込まれると本能で逃れる術を探そうとする。 バス停や駅には程遠い距離。そんなことは百も承知のはずなのに、何かないかと菊丸はキョロキョロ辺りを見回してみた。 が、そんな道端に何があるはずもなく。 「先輩、ちょっと変わって」 「お、おう」 越前は桃城に不二の腕を任せ、携帯を取り出した。 「今タクシー呼んだから。病院行きましょうか?」 中学生にしてさらっとタクシーを呼びつける手際の良さ、さすが越前リョーマというところだろう。 緊急時の対処は心得ているというか、可愛くないくらい冷静だ。 「ありがと。でもちょっと休んだら治ると思うから」 「じゃあ、とりあえず家に向かうとして、先輩達どうします?」 「一緒に行くよ、決まってるだろ!」 皆が自分の事で話をしているのが頭の中をぐるぐる回っている。 気遣わせてしまっているんだ。部活後の折角の一時なのに・・・。 「そんな・・・いいよ。僕は平気・・・だから、もう行って―――」 そんなことできるわけないだろ!と、不二を案ずる声も既に遥か遠い。 だめ、僕なんかに構っちゃだめ・・。 友達として想ってもらえる人間じゃないから。 同じテニスプレイヤーとして最低だ。人としても―――。 そんな奴だから、もう放っておいて・・・。 朦朧としながら告げた言葉も、自分が発している台詞なのか、頭を巡っただけのか、それすら区別がつかなくなって意識はそのままぷつりと消えた。 next / back |