LOVE ATTACK3 「ちょっと、ごめんね」 さらさら髪を靡かしてにっこり笑いながら手塚ファンクラブなるものを掻き分けていく姿は何気にオーラを感じさせる。 そら、そうだろう。 不二こそは気付きもしてないが、その魅力は女子の中でも一目置くほど。 ひそひそと小さく声を出しながらも道を開けずにはいられない状況。 それほどに不二はトップクラスの美少女なのだ。 手塚ファンクラブがあるならば、不二親衛隊は当然の如し存在する。 今、ジャージを脱ぎ捨てた不二は言うまでもなくスコート姿。 テニスをやってるとは思えないほど華奢な手足がすらりと晒されて、 女子の甲高い声とは正反対のうなり声がどこからともなく漏れ出した。 女王さまのおなり〜〜〜! とばかりに男子部コートに入り込んだ不二に部員の目線も釘付けだ。 例外も約一名いるにはいるが。 「フォ、フォーティ、ラブ」 同じく不二を見ていた審判が慌ててカウントする。 「なんだ今のは。試合中に余所見などするな!」 対戦相手に厳しい一声が飛んだ。 「は、はいっ、すみませんっ!」 怯えたように構えなおす後輩を見て不二は 「相変わらず厳しいね、可哀想に。きっとこの後グラウンド走らされるよ」と人事のように同情する。 「可哀想にって不二が原因っしょ」 煌然たるオーラを纏った不二に最初に近づくことができたのはクラスメイトでお馴染みの菊丸だった。 「何で僕が悪いんだよ」 「わ、悪いなんて言ってないだろ。でもさ、みーんな不二を見てることに気付かない?」 ぐるりと見渡してみて改めて気付く。 男子部員も、手塚ファンクラブも、(不二だけ知らないが)不二親衛隊も皆一斉にこっちを見ていた。 た、確かに・・。 だけどなんで??? 今更ながらに不二は鈍感だった。 「足だしてさー、行き成り現れるからだよぉ」 菊丸は不二を自覚させようとそっと耳打ちする。 足・・? 「あ、そうか、これに気付いてくれたんだね」 そういって嬉しそうに短いスコートを更に捲り上げた。 「なななななにやってんだよ〜〜!」 慌てて不二を隠そうと両手をばたばた広げてその周りをぐるぐる回りだす菊丸。 「だって、ほら日焼けの痕が薄っすら付いたんだ。ほら、ほらっ!!」 言葉どおり薄っすらとスコートの丈の位置で腿に境界線が入っていた。 それがまた言いようもないほど艶かしく。 男共の視線の矛先は不二の腿を射抜くように向けられる。 しかし我関せずとこれでもかとばかりに見せ付ける不二に、 ぶっ――― 「お、俺ちょっとトイレ・・」 鼻を押さえながらティッシュを取りに行くものやトイレに駆け込むものが何人かいた。 毎日炎天下の下で練習に取り組んでるにも関わらず、不二の肌は白かった。 そんな誰もが憧れるような肌質も、不二自身にはコンプレックスでしかなかったのだ。 いつもは赤く腫れてひりひりするのが関の山。 それが3年目にしてとうとうほんのりと型が付く程度に日焼けしたものだから不二は嬉しくて仕方がなかった。 それを皆が気付いてくれたとあまりに頓珍漢な勘違いをしている不二に菊丸も平常心を保ってられない。 「頼む、やめてくれよ〜不二・・」 「そう?じゃあ」 漸くスコートを下ろしてくれた不二に安堵の溜め息を洩らしながら 「で、一体何しに来たの?」とやっとこさ本題に入る。 「あ、そうそう。試合してほしいんだ。あそこでさ!」 びしっと指差すその先は当然手塚がいる真隣のコート。 「相手は越前君で」 にっこり笑ってご指名するのは青学期待のルーキー越前リョーマ。 「よろしくね」 試合開始の挨拶に手を出す不二ににんまり笑ってその手を取る。 「なかなかやるっすね、でも部長見てなかったすよ」 ちらりと手塚を流し見る。 「何のこと?」 越前は不二の疑問にショートパンツの裾を指で摘んでちょんと持ち上げた。 「さっきの、こういうの」 目の前で腿を見せる越前を見てさすがの不二も彼が言わんとすることを理解する。 「ちょっ、違っ!!僕は――」 「別にいいじゃん!よかったら協力しようか?条件付きだけど」 かあっと赤くなって必死で繕おうとする不二を真っ直ぐ見つめる大きな目。 さらっと、それでいてきっぱり言い放つその態度は1年ながら可愛くない。 何でこんな奴に手塚は目を掛けてるのか。 越前リョーマは今最も手塚が関心を示している人物だった。 確かにそういう意味での計算はした。 手塚が認める存在を試合相手に選ぶことで、必然的にこっちをも振り向くことになる。 「よ、余計なお世話だよっ!」 「ふーん、ならいいけど」 あくまでも挑戦的な言い様に不二はふんっとそっぽを向く。 その目の先に映ったものは、真っ直ぐ相手コートを見つめる手塚の姿。 『手塚に見せてたわけじゃないもん・・』 それは本当だ。 不二は純粋に日焼けの痕が嬉しかっただけ。 だけど・・・ 見てないんだ。 僕のことなんて――― あの場にいた皆が自分を見ていた。 何故見られてたかなんて不二には分からない。 唯一つ分かっていることは手塚だけ、手塚の瞳の中だけ自分の姿なんて微塵も存在しないということだ。 隣のコートに立った今でさえ、きっと手塚は見向きもしないだろう。 不二はその現実にきゅっと唇を噛む。 越前がサービスのポジションに付こうと背中を向け歩き出した。 「待って!!」 不二の声に越前の足が止まる。 ゆっくり振り返った越前に投げつけた言葉――― 「条件って何?」 next / back |