LOVE ATTACK4



越前はもう一度不二の前まで戻ってきて不敵に笑う。

やな感じ・・・

でもここで引き下がるわけにはいかない。
不二も負けじと越前をぐっと睨みつけた。

「へぇ、乗る気になったんだ」
「何だっていいじゃん!早く条件とやらを言いなよ」

あくまでも強気な態度を崩さない不二に越前が出した条件とは

「じゃあ、俺の彼女になって」

一瞬、耳を疑った。
何を言い出すのかこのルーキーは。

「えっ、だって、でも・・・」

戸惑う不二の口調はさっきの勢いは何処へ行ったやらで、既に困惑モードに入っていた。
不二にとって告白なんて珍しいことでもなんでもない。
もちろん手塚の恋人になると私的勝手予想図を作り上げている不二にとって誰からの告白にも揺るぐことなどなかった。
だが、こんなにストレートにしかもこんなにふてぶてしく申し込まれたのは初めてで。

「僕は・・その・・本気なの?」

強く向けられた視線がぷっと吹き出した声と同時に少し横にずれる。

「クレバーなテニスするわりに、結構単純なんだ。冗談に決まってるでしょ」
「なっ・・!」

じょ、冗談だと!?
不二は真っ赤な顔でわなわな震えだす。

「君、僕をバカにしてるんだろっ!!」
「被害妄想。ただの冗談だって言ってるじゃん。でなきゃこの協力自体成立しないと思わない?」
「うっ・・」

痛いところをつかれて言葉に詰まった。


「まっ、あんたの気が俺に向いたんならそれでもいいよ」
「そっ、そんなことあるわけ――」
「ないって?はっきり言ってくれるじゃん。まあそういうとこも気に入ったけど」

すっかり越前のペースだ。
遊ばれてる、完全にこの一年に。
こんな奴に協力を仰ぐなんて初めっから間違っていた。
不二は今すぐコートから立ち去りたかったが、ここで引いてはプライドが許さない。
手塚にも試合放棄という最悪の印象を与えることになる。

こうなったらこてんぱんにやっつけて―――

「デート一回でいいよ」
「は?」
「条件。それくらいならどうってことないんじゃないの」

確かにデートと称して一緒に出かけるくらい大したことではない。
でもふざけてるとしか思えない越前の目的が見えてこないだけ、「はいそうですか」とはいかない。

「君さあ!・・」

そんな不二に一向に構うことなくさっさと越前はその「協力」とやらの指示をし始めた。

「俺が合図したらラケット顔面のあたりに持ってきて。打った球が届くギリギリくらいで、あんたならできるだろ。避けたり、顔を背けたりしないでよ」
「?・・それで、僕に何をしろと?」
「何も。あ、なるべくグリップ弛めといて。他の女なら大丈夫そうだけど、あんただから一応注意しとくよ」

グリップを弛める?
越前は一体何をしようとしてるのか?

「あの・・」
「じゃ、デートよろしく」

不二に物言わさずひらひら手を振ってサービスラインまで下がった。

越前サービス、
見とれるほどの綺麗なフォームで黄色い球が振りかぶる。

さすが―――
振り上げた指先、身体の撓り具合、そして打つ瞬間の微妙な角度、どれをとっても越前リョーマは完璧だ。
鋭いサービスが突き刺さってくる、フォームから瞬時に悟った不二は構えるラケットに力が入る。
それでも女子ナンバー1の意地にも掛けて決められてはなるものかと行き成り鋭いスピンを掛けに入った。
相手の力を利用したカウンター、更に球は威力を増して越前のコートへ流れていく。

激しい攻防が続く中、隣コートからマッチポイントの声が届く。

越前のトスがくる――

すっかり本気になっていた不二は唇をきゅっと締めて球を射抜くように見つめている。
その時越前がトレードマークとも言える帽子を軽くあげた。

もしかして・・合図?

次の瞬間、越前は右手にラケットを持ち替える。
空に吸い込まれるように高くトスが上げられたと同時に

「ゲームセット・ウォンバイ手塚」

審判の声が響いた。


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