LOVE ATTACK5

瞬時のことであるはずなのに、越前があげたトスがまるでスローモーションのように空へと上っていく。
不二は妙な緊張が走り、ごくりと生唾を飲み込んで喉を鳴らす。
ラケットをボールが届く瞬間に顔面へ。その時グリップを弛める。
越前の出した指示を頭に走らせた。
けれど緊張しているのは指示のことより越前リョーマが打とうとしているサーブ。

ツイストサーブだ・・。

大物ルーキーは見事信じられないようなサーブを打ち放つ。
実際不二も何度も目にしているが、自分に向けられるのは初めてのこと。
逆回転のそのサーブ、トップスピン気味に跳ねるようだが、どんな威力があるのだろう?
自分は打ち返すことができるだろうか?
ラケットが大きく弧を描くとほぼ同時に越前の足が地面から離れた。
そのスリルに大きく期待をしてしまった不二、サーブに対する集中力は最大に高まっていたが「協力」に対する気合に少々かけてしまったようだ。
一瞬の気の緩みが予定を狂わす。
越前の指示通り、ぎりぎりでラケットを顔面には持って行った。
そのタイミングはさすがと言える。
グリップの握り具合もばっちり弛め、越前の強い打球は計算されたままに不二のラケットを顔の前で弾き飛ばした。

しかしほんの僅かであっても「協力」よりも「試合」に気をとられた不二は、打球の威力に押され踏ん張りきれず身体ごと吹っ飛んでしまったのだ。

不二がザザッと地面に叩きつけられた後にラケットがカランカランと回転しながら落ちる音が響いた。

『マジ?』

まさか身体までふっ飛ばしてしまうとは思っていなかった越前は横たわる不二を見て少々焦る。
いやでも、これはむしろ自然でいいかもしれない・・・と判断し、「協力」を続行することにした。


越前の計画はツイストサーブが顔面に向かって飛ぶことを利用して不二に怪我をしてもらおうということだった。
あの責任感を絵に書いたような部長のことだ。放っておきはしないだろう。
もちろんホントに傷つけるわけにはいかない。
ギリギリにラケットを構えることによって咄嗟に顔面を庇おうとしたように見せかける。
逃げたり顔を背けて球が逸れたら意味がない。
とにかくラケットにぶつけないといけない訳だが、あの強気な不二のこと。
しかも天才と言われるだけあってその実力は越前も知るところ。
顔面であろうと頭上であろうとリターンしかねないほど抜け目がない。
それが分かっていただけに予めグリップを甘くするよう忠告しておいた。
普通のサーブなら不二が打ち損じるなんてまず考えられないが、ツイストサーブを返せるかどうかはまだ皆の知るところではないからだ。
ラケットを弾いた後、如何に不二が負傷したように見せかけるかはすべて越前の小芝居にかかっている。
不二に何も知らせなかったのは、どうせ棒読みの学芸会が繰り広げられるのが目に見えていたからだ。
あの手塚を騙くらかすのだ、相当の演技力がいる。
天然100%、添加物なしの不二が行き成りジャンクフードを演じても、猿芝居で終わるのが落ち。
それに罪悪感にいつまで耐えられるかも分からない。
途中で暴露なんてされたらこちらとていい迷惑だ。
だからそのまま何も知らさぬ方がいいというもの。

デートがかかってるからね。
部長には何がなんでも不二先輩を保健室まで運ばせて、家まで送り届けてもらう。


にやり――― 幸か不幸か不二は今コートに横たわる格好で転がっている。
これはより深い演出効果になる。
不二には悪いがラッキーなこの誤算に越前の口元が釣りあがった。


さてと行きますよ、部長。


「ふ、不二先輩っ!!!」

慌てた声をあげながら越前はネットをひらりと飛び越え、倒れる不二の元へと駆け寄った。


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