LOVE ATTACK6



不二の注目度は言うまでもない。
手塚の試合が終わった今、コートにいた男子部員、周りを取り囲むギャラリー達が殆ど不二を見ていた。

途端にコートがざわつき始める。
そら、そうだ。
あの天下の美少女、不二周が越前のツイストサーブを食らってコートに倒れこんだのだ。
しかも結構華麗に吹っ飛んだ。
髪を乱して地面に伏せっている姿は何ともそそられる。
無防備に投げ出された足はスコート下から覗かしている時とは比べ物にならないほど色っぽく。

「ふっ、不二先輩っ!!!」

ネットを飛び越えて不二の傍へ駆け寄ってきた越前。
走りながら横目で手塚を確認する。
試合終了直後とあって手塚は不二がツイストサーブを食らった瞬間を見てはいなかった。
そして周りが騒ぎだし初めて不二の異変に気付いたらしいことをインプット。
これは好都合。
ひそかにほくそ笑みながら倒れる不二の横に座り込んだ。

「大丈夫っすかっ!!」
とわざと大袈裟に不二に声を掛ける。

不二は・・・と言えば
驚くほどの勢いで吹っ飛んでしまったとはいえ、球はラケットにあたったわけで身体は何ともない。

「うん・・だいじょぶみたい」
もっそり起き上がろうとしたところ―――

ゴンッ!!

「いてっ!」

いきなり越前に頭を地面に押し戻されて再び寝転んでしまう。しかも思いっきり勢いよく打ち付けてくれた。

「なにす・・んぅ・・ぅっ・・」

打った頭を押さえながら講義しようとした口を手のひらで塞がれて息もできず手足をじたばたさせる。

「お、おい。様子が変だぞ」
「立てないんじゃないのか」

周りが一層ざわめき出し、菊丸筆頭に不二と親しい部員達が駆け寄ってきた。
構わず越前は続ける。

「ここに球、当たったんすか?」
「ん・・ふぅ・・ふぐっ・・」

そこはてめぇが今地面に押し付けたんだろっ!と言い返したいが口を押さえ込まれて物申せず。
「いい?部長と上手くいきたいならこれから余計なこと一切喋らないでよ。」と半ば脅すようにそっと耳打ちして手を離した。

「頭に当たったのか?ラケットを弾いたように見えたんだけどなあ・・・」
「え・・その・・あの・・」

動体視力に長けている菊丸はツイストサーブがラケットに打つかったことをしっかり見ていた。
あたふた口篭る不二をフォロー(?)する越前。

「何言ってるんすか、先輩!ここに当たったんす!」と不二の頭をぺちぺち押さえる。
「痛っ、痛いよっ!!越前っ!!」
「わぁ!大丈夫かぁ、不二ぃ・・・」

如何にも痛みを訴える不二に菊丸もあっさり信じてしまう。
凄い演技力!
なかなか不二もやってくれる。と言いたいところだがそんなわけあるまい。

越前は頭を押さえる反対の手で不二の二の腕を思いっきり抓っていた。
お陰ですっかり不二は越前のツイストを頭に食らったと皆に誤解してもらうことが出来た。
あとは手塚を呼んでとりあえず様子を見てもらう。
自分には不二先輩を運べそうもないから部長お願いします!とか何とか言って保健室へ運ばせる魂胆だ・・・・ったが、


「とりあえず保健室に行ったほうがいい」
大石が不二を起こしにかかったのだ

これには越前も焦る。
それは部長の役目、あんたじゃ役不足なんだって。

「ちょっ、ちょっと大石先輩が連れていくんすか?」
「責任を感じるのは分かるが不二より小さいお前が運ぶのは無理だ。心配するな、俺に任せておけ。」

部長以外に任せられないんだよっ!
と言いたいが、保健室に運ぶという正当な行為をなんと阻止しようか。
くっ!!ここまで来て失敗に終わるのかと唇をギュッと噛み締めた時・・・

「待て、大石。少し様子を見たらいいんじゃないか」

おお!助け舟とはまさにこのこと。
冷静なその声はかのデータ男乾貞治。

「頭を打ってるんだったらむやみに動かさない方がいい。幸い不二は意識もあるし顔色も悪くないようだが、もう少し大丈夫と分かってからの方がいいだろう。なあ手塚?」
「そうだな」

何時の間にここにいたんだろう。
振り返った越前の背後に既に手塚は立っていた。

「見せてみろ」
不二の横に腰を下ろし頭にそっと触れた。

「痛いか?」
「う、ううん・・・」

ドキン―――
思わぬ手塚の接近で不二の鼓動が早くなる。
何だか息苦しくて呼吸が乱れてくる。

「何処か、苦しいのか?」
気遣わしげに覗いてくる手塚の瞳がぼやけるほどに目の前にあって、更に胸が前後する。

「む、胸が・・・」
「胸?気分が悪いのか?」
「い、いえそういうわけじゃなくて・・」

肩を抱くように支えてくる手塚の腕に不二は既に硬直状態。
菊丸や大石の心配を他所に乾が密かにぷっと吹き出した。

「それだけしっかりしてるならやっぱり保健室へ行ったほうがいいかもしれないな」

さっきとは一転して保健室へ連れて行けという乾の言葉が少し引っかかる。
先生を呼ぶ方がいいような気もするが、不二の顔色は寧ろ血色がいいほど赤く、話していることも一応理解しているようだ。
手塚はどうしたものかと少し迷ったが不二の足に目が留まる。

「分かった。皆練習を続けておけ」

そう残して固まっている不二をひょいとお姫さま抱っこして歩き出した。




途中かなり妖しくなったけどけど、まずは成功―――かな?
無事手塚に保健室へと運ばれていく不二を見送りながら越前はホッと胸を撫で下ろす。

「なんすか?乾先輩」
「別に。ただ―――メリットはなんだい?」


next / back