LOVE ATTACK32 「佐伯・・・」 何故こんなところに? 偶然に出くわしたライバル校の選手。 手塚から行き成り訝しげな視線を向けられて佐伯は苦笑いをする。 「参ったな。出来れば君には見られたくなかったけど」 「どうかしたのか?」 「捻挫だよ。一度やると癖になるってホントだね。注意されてたのに、昨日またやっちゃってさ。さすがにこっぴどく注意されたよ」 念のためこれからレントゲンを撮るんだと、佐伯は痛めているらしい左足をほんの少し持ち上げた。 「わざわざこんなとこまで治療に来てるのか?」 ここは都内の病院。佐伯が住む街からはかなり距離がある。 いくら専門だと言っても、捻挫の足を引き摺ってここまで通うものだろうか? 「ああ、不二に無理やり連れて来られたんだ。いい病院があるからって」 「不二が?」 手塚にこの病院を勧めたのも不二。 不二自身が掛かったわけでもないのに、やけに詳しい内情を知っていた。 不二の勧められるがままこの病院に決めたが、手塚にとって結果的にここに来て良かったと言える。 「うん。千葉に帰ってからでいいって言ってるのに早く看てもらうに越した事ないってうるさくてさ」 「帰ってから・・?」 「ああ、俺達幼馴染なんだ。子供の頃から家族ぐるみの付き合いでね。君との試合の後不二の家にいたんだよ」 「そう・・・か」と納得しかけて手塚ははっとする。 俺との試合の後だと―――? 「ちょっと待ってくれ。お前のその捻挫の発端はあの時の試合か?」 「全く無様だよね。何とか君に付いていけるって確信した途端『グキッ!』って。一瞬の油断ってやつだろうね」 「じゃああの時、急にお前のプレイが変わったのは?」 「まあね。でも理由にするつもりなんてないよ。これも実力のうちだしね。それに俺にもプライドはある。そんな理由で負けたなんて君には知られたくなかったのが本音だよ」 そう言いながらも佐伯はカラカラと笑った。 どういうことだ。 佐伯はわざと負けたのではなかった。 どう考えても嘘を隠す為や不二を庇う為などではない。 ここで会ったのが何よりの証拠だ。 だが、どうしてあの時不二は言い訳一つしなかったのだ。 「手塚こそどうしてこんな所に?どこか怪我でもしたのかい」 白々しい。 ついさっきまでだったらそう思ったかもしれない。しかし――― 「不二に聞いてないのか?」 「不二に?いいや」 首を横に振る佐伯はどうやら本当に何も知らない様子だ。 どこか釈然とはしなかったのは事実。けれど、それならこれまでの不二の言動は何だったのだろう。 有りもしないことを言われて、怒るどころかそれを認めるような素振りさえ見せていた。 手塚に僕の何がわかるっていうの! あの時の叫びが唯一の不二の本音。 本気で心配していた相手に疑われた。どれほど悔しかった事か・・・。 そうまでして耐えていたのは何故? 何があるんだ?不二の心の根底に一体何が―――!? 「佐伯、不二がお前に頼んだ事なんだが」 そうだ、いつでも鍵は目の前にあった。 色々疑わしく思いながらも解決に至らなかったのは、何もしなかったからだ。 もうこれでいいと自己完結させて、不二に歩み寄ろうとしなかった。 聞けばよかったのだ。疑問に思ったことをただ聞くだけでよかったのに――― 自分が背を向けた。 「あれはどういうことなんだ?」 「・・・・・?」 何のことだと言いたげに佐伯は首を傾げる。 「俺は八百長試合を不二がお前に頼んだのだと―――」 「・・・・・ああ!何の話かと思ったら」 佐伯はぽんと胸の前で手を合わせ、合点がいったとばかりの表情を向けた。 「八百長なんて人聞きが悪いよ、手塚。でもそう言われたらそうなるのかなあ」 佐伯は頭を掻きながら、眉根をさげて苦笑した。 「けど不二も酷いよな。二人だけの秘密とか言っといて、君には話してたんだ。やっぱりそれだけ君は特別ってことなのかな」 手塚には佐伯の話の全貌が今ひとつ見えない。 やはり不二は馴れ合いの勝負を仕組んでいた。 だがあの試合は捻挫が原因で、しかもこの話し振りからして手塚に知られてまずいことでもない様子。 ということは他の誰か―――? 手塚は自分の髪をくしゃりと持ち上げた。 何かやっと暗いトンネルの向こうに出口が見えかけたような気がした。 「もう少し詳しく教えてくれないか?」 「・・・?なんだ、はっきりしたことは聞いてないのかい?うーん、それなら俺から話すのは・・・」 「頼む!」 手塚の思いは懇願に近い。 真剣な瞳で詰め寄られては佐伯も頷かざるを得ない。 「まあ、君にならいいか。君の言う通り不二に頼まれて試合にわざと負けたんだ。初めはやっぱ戸惑ったけどね。でも裕太は俺にとっても弟みたいなもんだし、仕方がなかったって言うか」 「裕太―――?」 「ああ、不二の弟だよ。知らないかなあ、聖ルドルフの2年生。最近『左殺し』なんて言われてるんだけど、不二裕太って聞いたことない?」 「おと・・うと?」 まるで鈍器で殴られたような気分だ。 見えなかった真実。どうして不二が、と考えれば考えるほど迷い込んで抜けられなくなった。 そんな隠し扉があったなんて―――。 愕然と立ちすくみながら、手塚は頭の中でやっと解き明かされた謎をもう一度吐き出した。 「弟・・・」 今まで突然参加だった裕太君、やっと繋がりました^_^; next / back |