「テニスコートがあるお寺なんて初めて見た」 長い階段を上り詰めると、そこには極普通の寺となんら変わらない情景が目に入ったのだが。 堂々と庭のど真ん中を占領する空間は、正にテニスコートだった。 「住職が留守なのをいいことに親父が勝手に作ったんすよ」 「へぇ、ユニークなお父さんだね」 それを単純にユニークと片付けられる不二もかなりなものであるが。 「どうだか。でもお蔭でやりたい放題っすけどね」 「そうだね、羨ましいな」 「いつでも使ってくれていいっすよ。どうせ俺と親父しかこんなとこ使わないっすから」 「いいの?」 いいも何も最初からそれが目的でわざわざ自宅横のコートに連れ込んだんだから。 じゃなきゃもっと整備された使い勝手のいいコートを選んでいる。 これは明らかに不二獲得の戦法だ。 「もちろん。相手がいない時はいつでも付き合いますよ」 さらっとアピールも抜かりなく。 「ホントに!じゃあ時々お願いしようかな」 純粋に喜ぶ不二を尻目に越前はこっそり利き腕でガッツポーズするのであった。 LOVE ATTACK9 「よしっ!越前、本気で行くからね。覚悟しな」 「望むところっすよ」 とにもかくにも今日はテニス。 越前もいきなり方向を変えようとは思っていない。 不二の気持ちが手塚に向いてる限りは下手な行動は逆効果。 まずはテニスでお友達から。それから徐々に関係を深めていこうというわけだ。 今のところは越前の作戦通り・・・・のはずだったが、 「なかなかいいコートだ」 二人だけしかいないはず。 なのに不二にしては低めの声が耳を通過する。 いや、違う。これは男の声だ。しかも嫌というほど聞き覚えがある・・・ 「乾!」 「やあ不二、いい天気だね。越前今日はお招きありがとう」 唖然とする越前に乾は当然とばかりに挨拶を投げつける。 招いた覚えなど全くない。不二以外の誰にも言ってなかったのに一体どこから聞きつけやがったのか。 「不二、足はもういいのかい?」 「うん、もうすっかり。それより乾も来るなんて全然知らなかった」 「そうかい、越前とは前から約束してたんだよ。なあ越前?」 「・・・っ!」 恋の協力を代償に約束した不二とのデート。 手塚の前にやっかいな奴が出現したものだ。 相手が相手だ、下手に敵に回すまいとは思ったが、これは思った以上に上手かもしれない。 情報網はその右に出るものがいない事は分かっていた。 けれどまさか「自宅でテニス」まで嗅ぎ付けてくるとは思っていなかった。 「ちっ!」と舌打ちする越前に乾はどことなく満足気である。 「さあ、不二。久しぶりに一緒に打とうか」 不二が越前とコートに入ろうとしていたところだったとか、自分は後からやってきたお邪魔虫だとか、乾にそういう意識は全くない。 というか、敢えて無視を決め込んでいるのだが。 「うん、いいけど。どうせなら皆呼んじゃおっと」 徐に携帯を取り出し慣れた手つきで指を動かす。 「な、・・・・」 不二の思いつきに乾が言葉を失ってる間に、話はさらっと付いたようだ。 「すぐに英二も来るって」 「・・・・・」 にっこり首を傾げる可愛い不二。だが菊丸が参加するだと? あいつは唯一不二に触ろうが抱きつこうがしぶしぶ不二親衛隊に見逃されてる男。 不二が認める「親友」という隠れ蓑の中で野放しになっているのだ。 そいつが来るとなったら当然不二の隣は奴が確保してしまう。 理屈じゃない・・・ 無言で立ち尽くす乾の前に不二の携帯が差し出された。 「はい、乾は海堂を呼んであげてね」 「海堂?」 「うん、英二が大石とたかさんを連れて来るらしいから海堂にも声かけてあげなくちゃ。仲間はずれはよくないでしょ。終わったら越前は桃に連絡してね」 ぶっ――― そのやり取りにいち早く噴出す越前。 「人の恋路をじゃまするからっすよ」とにやりと笑みを投げつけた。 乾が参加した時点で不二とのお楽しみはなくなったのも同然。 だが不二とのテニスはこれからもきっかけを作ってある。 ならば今日は乾の思惑が潰れる方に一票! 「へぇ、皆でテニス楽しそうっすね」 「でしょう」 満面に笑みを浮かべる不二と白々しい越前。 乾もまた舌を鳴らし、仕方なく海堂の番号を押した。 「桃先輩も来るって」 「そう。これで全員集合だね」 何が嬉しくて休日にまで同じ顔ぶれでテニスせにゃならんのだ。 越前も乾も内心で深い溜息をつくが、二人の気も知らず不二は上機嫌だ。しかもそれはすこぶる良さそうに見える。 「嬉しそうだな、不二」 「ふふふ、これで材料は揃った」 しまった!! 越前は慌てて返そうとした携帯を引っ込めるが、時既に遅し。 瞬時に奪われたそれを持つ不二の頬はほんのりピンク色。 あの元気娘、不二周があんなにもじもじ女の子になる相手は奴しかいない。 「手塚か!」 「やられたっす」 二人ともすっかり忘れていたが、不二はそんな控えめな女ではない。 日頃からあの手この手で手塚に猛アタックを掛けているのだ。 行き成り手塚に連絡しても可能性は薄い。そこで周りから固めたというわけだ。 レギュラー全員揃うのなら、手塚もやってくるに違いない。 いかにも単純明快な計算だ。手塚だって都合があるだろうに。 だが軍配は不二に上がったようだ。 「やりっ!」 両手を握り締めて全身ガッツポーズ! 乾だけでなく手塚までも・・・・。 予想外の展開にがっくり肩を落とす越前君だった。 next / back 女子部のレギュラーは?とか突っ込みはなしで・・。 |