(ミニ法話)  こころの泉

   5.小を得んとして

 昔、インドのベナレスにブラーマダッタという王様がいました。王には親しい修行僧がいました。修行僧は、王の相談相手となっておりました。
 あるとき、国境に一揆が起こったので、王は軍隊を率いて鎮めに行きました。進軍の途中、馬に食べさせるために豆を蒸して、飼い葉おけに入れておきました。
 一匹の猿が、それを見つけて樹から下りてきて、口一杯に豆をふくみ、両手に豆を握って樹にもどって豆を食べ始めました。食べている途中、豆が一粒手から落ちてしまいました。猿はあわてて落ちた一粒の豆を拾おうとして、口にふくんでいた豆や手に持っていた豆を投げ出してしまいました。
 ところが、落とした一粒の豆を見つけることができませんでした。猿はすごすごと樹の上にもどってきて、恨めしそうに飼い葉おけを眺めていました。
 その経緯を見ていた王は、そばにいた修行僧に「どう思いますか」と尋ねました。修行僧は、次のように言いました。
 「智慧の足りない者がよくやることです。両手に余るほどの豆を持ちながら、ただ一粒の豆を拾うために両手に持っていた豆を失ってしまいました。
 王よ、われらとて同じことです。貪る者は、皆同じようなことをしています。この猿のように小を得んとして大を失うのです」
 王は、小さな一揆を鎮めるために、わざわざ軍隊を率いて出てきたことを恥じ、すぐに引き返したということです。
 目の前の利益に心を奪われて、それまで築いてきた信用や財を失うということが多くあります。貪りの欲に支配されると、本当に駄目になってしまいます。貪りの欲が毒とされる理由です。
        (平成18年1月)