(ミニ法話)  こころの泉

   7.今を耐える

 あるバラモンに美しい娘がいました。彼は、娘を大変かわいがっておりました。このバラモンは、ブッダに会ったとき、その人格にうたれて、娘を差し上げるとまで言ったのです。もちろん、ブッダは断ります。断りの返事の中に、体は汚物を入れている不浄の容器であるというような表現があり、娘はその言葉を聞いて感情を害してしまいました。
 言葉だけをとらえれば、怒るのはもっともなことだと思われますが、箱入り娘としてやたらにかわいがっている親への戒めだったのです。ブッダは、娘をけなしたわけではありません。真実を直視しなさいとの教化(きょうけ)でもあったわけです。
 後に、娘は、ヴァッツア国のウダヤナ王の妃となりました。だが、ブッダへの憎しみは、容易に消えることはありませんでした。
 ブッダが国の都のカウシャンビーにやって来たとき、彼女は人々をそそのかしてブッダの悪口を広めるようにしむけたのです。
 都の人々からあまりにも悪口を言われるので、弟子のアーナンダは困惑してしまいました。アーナンダは、この町では悪口ばかり言われるので、他の町に行きましょうとブッダに願いますが、ブッダは首をたてに振りません。
 「アーナンダよ。争いごとが起きたならば、しずまるまでその場所で耐えねばならない。それがしずまってから別の場所に移るべきである。戦場にいる象が四方から飛んでくる矢に耐えているように、人々からの悪口に耐えなければならない」
 その悪口は、七日間しか続かなかったとされています。自分に不利な状況になると、逃げだしたくなるものです。現実から目をそらしたくなるものです。アーナンダがそうでした。それに対して、ブッダは、今受けている現実に耐えなければならないと言われたのです。
 嫌なことがあって逃げても、解決にはならないものです。先送りしただけで、必ずそのことと向かい合わなければなりません。時間がたてば、状況はより厳しくなるものです。
 ブッダは、今を逃げずに耐え忍ぶことの大切さを説かれているのです。
        (平成18年3月)