(ミニ法話)  こころの泉

   10.自分を生かす心

 世界的に活躍している指揮者の小沢征爾氏は、「音楽家がその人の感情をすなおに出したものが人の心をうつ」と言っておられます。つまり、音楽家が演奏するとき、上手に演奏しようというようなはからいの心をもたずに、すなおに演奏したとき、人の心をうつのだということです。
 絵や書も同じことが言えると思われます。有名な人の作品を拝見しても、何かはからいが入っているように感じられることがあります。
 私は熊谷守一翁の絵と書が好きです。何度拝見しても、見飽きるということがありません。熊谷翁は、「自分を生かす自然な絵をかけばいい」とあっさり言われています。だが、この言葉が出るには、大変な努力があったに違いありません。
 仏道を行じていますと、煩悩・我執(がしゅう)のはたらきに気づくことがあります。これらに支配されていますと、すなおな心・ありのままの心になることはできません。
 熊谷翁の言葉は、仏道だけでなく、人が生きていく上でも大切な教えだと思います。「自分を生かす自然な絵をかく」とは、すなおな心・ありのままの心で画けばいいということです。
 すなおな心・ありのままの心は、相手の心に伝わるものです。すばらしいと感動する絵や書は、絵や書に感動するだけでなく、かくときの作者のすなおな心・ありのままの心に感動するのではないかと思われるのです。
 すなわち、かく人のこのような心と見る人の心が響きあうから感動となるということです。
 ところがすなおな心・ありのままの心に簡単にはなれないものです。どうしてもはからいの心がはたらくからです。
 このような心になるためには、それなりの正しい努力と心構え、忍耐が必要となってきます。
        (平成18年6月)