(ミニ法話)  こころの泉

   13.写真道

 京都在住の写真家に井上隆雄という方がおられます。自然の中に入って、ありのままの自然の姿を撮り続けています。
 井上氏の名前は、仏教学者の玉城康四郎先生からお伺いしておりました。いかなる写真家なのか不明でしたので、ある写真集を手に入れることにしました。
 京都大徳寺の塔頭(たっちゅう)高桐院の庭を四季を通じて撮影したものです。その美しい写真に接して感動しました。直観的に感じたことは、井上氏は「全体の中に個があり、個の中に全体がある」ことを目指しているのではないかということでした。
 また、文章の中に、「無為の美しさや無我の尊さ」とか「自然(じねん)が展べる無常の自然」あるいは「自然のすがた」などの言葉がありました。私は、これらの言葉に心が動かされ、縁あって、アトリエを訪れることができました。
 お会いして私は「全体の中に個があり、個の中に全体がある」との印象を告げると、井上氏は、「実は私はそのことを目指している」と言われました。
 モンゴルの砂漠の中に立っているとき、自然と一体になったとか、緑の深い山中でも同じ体験をしたとのことです。「人間の美意識は、本来あるものを発見するだけ」、「撮影を通じて分別を取り払う体験ができるようになる」、「自然を撮っていると、向うから今シャッターを切れと言われるようなことがある」、「一木一草一枝一葉にすら無量に輝く光の世界を観るような時がある」などの表現を通じて、井上氏は正に仏道そのものを歩んでおられるのではと思いました。
 井上氏のこのような心境は、写真を通して自我のはたらきから離れようとして得た結果だと私は考えています。このことは、写真道というべきものであるととらえています。
        (平成18年9月)