(ミニ法話)  こころの泉

   15.我の主張

 あるとき、蛇の頭と尾が、言い争っていました。頭が尾に、「お前より俺の方が偉大だ」と言うと、尾が頭に、「いや俺の方が偉大だ」と言い返しました。
 頭は、「俺には眼があるので、よく見ることができる。口があるので、よく食べることができる。動く時は、いつも前にある。だから俺の方が偉大に決っている。お前にはできないであろう」と自慢しました。
 すると尾は、「俺は、お前を進ませることができるだけだ。しかし、もし俺が動かなかったなら、お前はどこにも行くことができないだろう」と言い放って、傍らの木に三重に巻きついてしまい、そのまま三日間じっとしていました。そのため、食物を得ることができず、蛇は死にそうになりました。
 そこでついに、頭は尾に、「俺をここから自由にしてくれ。君の方が勝れていると認めるから」と弱音を吐いたので、尾は頭を自由にしてやりました。頭は、さらに尾に、「君は、私よりも偉大である。どうぞ私の前に行ってくれ」と伝えました。
 そこで尾は、頭より先に行こうとしたが、ほんのわずか進んだだけで、深い穴に落ちて、蛇は死んでしまいました。
 これは、経典にあるたとえ話です。蛇すなわち衆生は、無智のために我に執着して、最後には地獄・餓鬼・畜生という苦しみの三悪道(さんあくどう)に堕してしまうということを表したものです。
 蛇の頭と尾のように、人と人が我を張り合って対立するようになれば、お互いに不利益をこうむってしまいます。また、家族の中でそうなれば、家族が崩壊する恐れがあります。会社などの組織の中で張り合えば、組織にとって損失となりかねません。
 我の主張は、智慧がはたらいていない、つまり無智からくるものです。無智は、人を駄目にする原因になります。
        (平成18年11月)