(ミニ法話)  こころの泉

   21.現実を直視する

 ブッダが祇園精舎に滞在されていたとき、コーサラ国のパセナーディ王が訪ねてきました。
 「王よ、こんな場合あなたはどう思われるか。あなたの信頼する者が、東の方から急いで帰ってきて、『大王よ。いま東の方から虚空のような大きな山が、すべての生きものを押しつぶしながら、こちらに進んできています。大王よ、急いでなすべきことをしてください』と言ったとする。また、そのとき西の方からも、北の方からも、南の方からも、あなたの信頼する家臣たちが帰ってきて、同じように注進したとする。王よ、それは恐ろしい事態であって、いうなれば破滅のときです。そのような事態に立ち至ったとき、何をなすべきだと思われますか」
 「世尊よ、そんな事態になれば、なすべきことがありましょうか。ただ、生のある間、善業をなし、功徳を積むことしかありません」
 「王よ、これは単なるたとえ話ではありません。老いが王を襲っています。死が王を襲っているのです。この事態に王は、何をなすべきだと思われますか」
 「世尊よ、仰せの通りです。老いと死は、大きな山のように、私に押し迫ってきております。この期に及んで何のなすべきことがありましょうか。なすべきことは、ただ善業をなして、功徳を積むほかはないのであります」
 老いは、一瞬一瞬確実に進行しております。死は、いつ襲ってくるかもしれません。この逃げることのできない現実をしっかり見つめる必要があります。王の覚悟のように、善業をなして功徳を積むことができるでしょうか。
 私の知人に、ガンで亡くなった人がいます。肝臓ガンが見つかったとき、すでにかなり進行していました。肝臓から肺と背骨に転移し、背骨に転移してからは歩行も困難になりました。だが、ガンに罹っていることが分かっても、生活態度は以前と変わらず積極的であり、ガンから逃げることなく残りの人生を精一杯生き抜きました。
 老いと死を自分の問題として人生をどのように生きるのか、このことは一人一人が考えなければならないことだと思います。
        (平成19年5月)