(ミニ法話)  こころの泉

   23.重重無尽

 帝釈天の宮殿に張りめぐらされている宝網を因陀羅網(いんだらもう)といいます。網の一つ一つの結び目に珠玉がつけられていて、そこに光が当たると四方の玉に光が映ります。四方の玉に映った光がまた四方に映るというように、無数の玉に拡がってゆきます。一つの玉に映った光が互いに映しあって無限に拡がるわけです。この関係を重重無尽(じゅうじゅうむじん)といいます。『華厳経』に説かれている教えです。
 ブッダのような人間がこの世に現われて、正しい教えを説くと、その教えは光が玉から玉へ映ってゆくように、人から人に広まり、人々によい影響を与えます。その影響を受けた人々が、また他の人々によい影響をもたらします。このようにどんどん拡がってゆけば、人も社会もよい方向に変ってゆきます。
 しかし、逆もあります。一人の邪悪な人間がいて、誤った教えを説くと、その教えは同じように拡がって人に悪い影響を与えます。その影響を受けた人々が、他の人々に悪い影響を与えます。このように拡がってゆけば、人や社会は悪い影響を受けてしまいます。
 現実の世の中は、善悪の入り混じった社会になっています。金が第一であり、金儲けなら手段を選ばないという人間、損か得かの基準で判断し行動する人々が多くなっています。
 反対に、礼節を尊び、つつましやかさ、足るを知るなどの美徳を大切にする人々もいます。
 また、煩悩でしか生きていないような人間が増えていますが、高い倫理観をもっている人々もいるのです。
 善悪共に混在して多くの歪みが出てきているのが、現在の日本社会の様相だと思います。今こそ仏教の正しい教えの重重無尽の拡がりが必要とされているのです。
        (平成19年7月)