(ミニ法話)  こころの泉

   29.安定した人生

 ブッダに、
 「初めも善く、中も善く、終りも善し」
 という教えがあります。
 あるとき、最初の六十一人の弟子たちに、新しい土地に布教に行くようにと指示されました。皆、伝道の志に燃えて張り切っていました。そのような修行僧たちに、「汝等の赴く先には、様々な困難が待ち受けている。教えに反感をもち、腹を立てて殴りかかってくる人がいるかもしれない。そういうことをあらかじめ承知して、慎重に忍耐強くわが道を行きなさい」と諭されました。
 初めは意気込んでブッダの教えを説いても、教えを聞いたすべての人がそのまま受け入れてくれるとは限りません。事実、十大弟子の一人モッガラーナ(目連)は、托鉢の途中で異教徒の手によって殺されています。毒殺されたともされています。
 ブッダの教えは、当時は新しい教えですから、反感をもつ人がいても不思議ではありません。そういう人たちを前にして、初めの意気込みだけで続けることは困難です。そのため「中も善く、終りも善し」となるように慎重に、忍耐強くわが道を行くようにと説かれたものと思われます。
 何事においてもそうですが、初めに強い決意をもっていても、最後まで初志を持続してやりとげることは難しいものです。困難に立ち向っていく気力を持ち続けないと成就しません。この持ち続けるということが重要なのです。
 若い頃に活躍していても、年をとってどのような人間になっているかが大切です。若いときはすばらしい人生であっても、晩年になって人生を誤ってしまうような生き方をすれば、その人の人生はよい人生であったとはいえません。ブッダのこの教えは、起伏の少ない安定した人生を歩むことの大切さを説かれているといえます。
        (平成20年1月)