(ミニ法話)  こころの泉

   32.身の破滅

 経典に次のような話があります。
 昔、インドに一人の長者がいました。長者には財宝がたくさんあり、傭人も多くいて、馬や象も数多く所有していました。夫婦の間に子供が一人いました。
 後年、長者は重い病に倒れ、自らの死期が近いことを知って、息子を呼んで、「わたしの財産を全部お前に残していくから無くさないようにしておくれ」と遺言しました。
 ところが、長者が亡くなると間も無くして、息子は金を使いだしたのです。そのため財宝も次第に少なくなっていきました。遊び癖がついて家業に励まなかったので、すべての傭人に逃げられてしまったのです。母親は心配のあまり病気になって死んでしまいました。
 彼は全財産を失ってしまったので、山に入って薪を集め、木の実を拾って町に持って行き、売って生計を立てていました。ある日、いつものように山に入って薪を拾っていると、雪が降ってきました。近くに洞窟があったのでそこに入ってしばらく休むことにしました。実はこの洞窟は、昔国王が宝を隠していた場所だったのです。長い年月すぎていたので、誰も気づかなかったわけです。男は、偶然に宝を発見しました。
 彼は、夢中になって宝を数えはじめました。「これだけの宝で家を建てる」「これだけの宝で妻を迎える」というように、自分の欲しいものを心に思い浮かべながら数えていました。その最中に山賊の一群が洞窟の前を通りかかりました。彼らは、夢中で宝を数えている様子を見逃しませんでした。男を殺し、宝を奪ってどこかへ姿を消してしまったということです。
 金を使って遊んで財産を失う、宝を夢中になって数えることは、現世(げんぜ)の欲望に執着していることを表しています。つまり、現世の欲望や楽しみに執着していると、いつか身を滅ぼしてしまうとの教えです。
        (平成20年4月)