(ミニ法話)  こころの泉

   34.人を害せず

 お釈迦さまの在世時、インドには四つの強大な国がありました。その一つコーサラ国のパセーナディ王にマッリカーと呼ばれている王妃がいました。マッリカーとは、白い小さな花の連なる花木のことです。日頃、王妃は、その花のついた枝を環にして髪に飾っていたので、マッリカーと呼ばれていたのでした。
 ある日のこと、パセーナディ王は、マッリカーと共に宮殿の高楼に上りました。雄大な眺めを見渡していたとき、王はマッリカーに次のように語りかけました。
 「マッリカーよ。この広い世の中に、そなた自身よりも愛しいと思うものがあるのだろうか」
 彼女はしばらく考えて、次のように答えました。
 「王さま。わたくしには、この世に自分より愛しいと思われるものはないと考えています。王さまはいかがでしょうか」
 「マッリカーよ。わたしもそうとしか思えない」
 二人の考えは一致しましたが、確固たる自信があったわけではありません。そこで二人は、祇園精舎にお釈迦さまを訪ねることにしました。
 お釈迦様は、この世の中で自分より愛しいものはないという二人の考えを聞いて、次のように言われました。
 「人の思いは、どこにでもいくことができるものだ。しかし、どこにいこうとも、人は自分より愛しいものを見つけることはできない。それと同じく、他の人々にとっても、それぞれ自分が一番愛しいものである。だから、自分が愛しいと思う者は、他の人々を害してはならない」
 人を害するとは、身体を害するだけではありません。人の心も害してはならないということです。身体による行為だけでなく、言葉による行為にも気をつける必要があります。
        (平成20年6月)