(ミニ法話)  こころの泉

    44.この身は苦の因

 ある経典に次のような寓話があります。
 山中の樹の下で修業をしている一人の比丘がいました。彼のそばに鳥や鳩、毒蛇や鹿が坐っていました。比丘が、「世の中で一番苦しいことは何なのか」と彼等に聞きました。すると鳥は、「飢えと渇きとが最も苦しいです。飢えと渇きのときには体が疲れて目がくらみ、網にかかってしまいます」と答えました。鳩は、「淫欲が一番の苦です。色欲が盛んになると、身をかえりみることなく命を滅ぼしてしまいます」と告げました。されに毒蛇は、「怒りが最大の苦です。怒りが一度起こると、人を殺し、自らも殺してしまいます」と返答しました。最後に鹿は、「恐れが一番の苦です。自分は森の中で猟師と狼の声を聞くと、あまりの恐ろしさに逃げて谷に落ちてしまいます」と答えたのでした。
 これらの話を聞いて比丘は、「お前たちが言っていることは、枝葉末節にすぎない。決して苦の根本を語っているのではない。本当の苦はこの身にあるのだ。この身こそ苦の器にほかならない。そのために私は世間を捨てて道に励み、妄想を断ってこの体に執着せず、苦の根源を断ち切ろうとしているのだ」と彼等に語りました。
 仏教では、人間の体は四大(しだい)から成り立っているとします。四大とは、地・水・火・風の四つの要素のことです。これら四つの要素が因縁によって合わさったものが体であるとしています。因縁によってできたものですから実体はありません。もし、実体があるならば、自己の意志で体を自由にすることができ、病気も治せるはずです。これら四つの要素が因縁によって合わさってできたものですから、自己の意志でどうすることもできないのです。このどうすることもできないわが身に執着することが苦の原因になるとの教えです。

        (平成21年5月)