(ミニ法話)  こころの泉

   57.すなおな言葉

 今の世の中、「ありがとう」「済みません」という言葉を使う人が少なくなったように思います。電車の中で老人に席を譲っても、「ありがとう」の一言もなく黙って坐る人がいます。また、人の足を踏んでも「済みません」と謝ることをしない人がいます。「ありがとう」「済みません」と言うだけで、お互いに心のうるおいとなるのではと思います。先程の例話のような人は、すなおな心を持っていない人といえます。
 電気製品の修理をしてもらった後、店の人から「ありがとう」と御礼を言われます。向こうは商売ですからそう言うのでしょうが、こちらは修理してもらってまた使えるようになったのですから、店の人に「ありがとう」と言ってもおかしくはありません。
 病院に行って治療してもらうと、患者の方から「ありがとう」と感謝します。病院の方から「ありがとう」とは言いません。しかし、病院にとって患者はお客さんであり、治療費をいただいているのだから、病院も「ありがとう」と言ってもおかしくはありません。
 先生と学生の間もそうです。卒業のとき、学生は先生に「ありがとう」と感謝します。先生の方から「私のもとで学んでくれてありがとう」とは言わないものです。普通、先生の方から学生に頭を下げることはありません。ところが、ある高齢の方から次のような話を伺ったことがあります。その男性は、小学生のとき成績がよくなかったそうです。ある夜、担任の先生が家にやって来て、両親に「ご子息の成績が悪いのは、私の教え方が悪いからです。申し訳ありません」と言って頭を下げられたとのことです。その先生の態度に心を打たれ、勉学に励むようになったそうです。昔は、このような先生がいたのです。
 「ありがとう」「済みません」とすなおに言葉を出せる心を大切にしたいものです。

        (平成22年6月)