(ミニ法話)  こころの泉

   64.安らかな心

 ブッダが祇園精舎のあるサーヴァッティからカウシャンビーへ行く途中のことでした。森の中で一夜を過ごすために枯れ葉を集め、その上で眠りにつかれたということがありました。
 翌朝、その地方の長者が森を散歩していると、枯れ葉の上に坐っているブッダの姿を見て驚き、「こんな所でお休みになり、快く安眠できなかったのではありませんか」と尋ねました。
 「いや、快く安眠させてもらったよ。私はどんな所で休んでも安らかに眠れるように恵まれている」
 しかし、長者は、その言葉を信じることができませんでした。
 「世尊よ。寒い夜でしたので、枯れ葉の上では、いかに世尊といえども安眠されることは難しいでしょう」
 「長者よ。それでは立派な邸宅の暖かい寝室に眠っている人たちは、皆安らかに眠っているのだろうか。柔らかいしとねに眠っている人たちは、皆快く眠っているのだろうか」
 「それでなくては快い安眠はできないと思いますが」
 「長者よ。いくら暖かい寝室の柔らかいしとねに横たわっていても、心に煩悩がわいているときは、寝苦しいものであろう」
 「そうでございます」
 「長者よ。快い安眠は心持ちが大切である。煩悩がはたらいていない者は、どんな所に寝ても安らかに眠れるのである。私の心は安らかであるから安眠できるのである」
 この対話から分かるように、安らかに眠れる人は、安らかな心の状態にある人だということです。安らかな心は煩悩に支配されていない心でもあります。煩悩を断ずることは非常に困難ですが、煩悩のはたらきから離れて安らかな心になることは可能です。


        (平成23年1月)