(ミニ法話)  こころの泉

      69.貴い心

 フランス革命の頃、一人の貴族がいました。この貴族は革命に反対したという疑いを受けて監獄に入れられました。毎日30分ずつの散歩を三度だけ許されているだけで、後は部屋に閉じ込められていました。ある日、監獄の中の小さな庭を歩いていたとき、ふと地面に小さな芽が出ていることに気づきました。風に運ばれるかして種がそこに落ちたのでしょう。その小さな芽を見て貴族は喜び、食事のときに貰う水を少し残しておいて、散歩の度に小さな芽に水をかけていました。
 毎日水をかけていると、芽は少しずつ大きくなって葉が出て、やがて花が咲くようになりました。革命政府の高官が監獄を見回りに来たとき、花を見て驚き、「どうしてこの庭にこんな花が咲いているのか」と獄舎の役人に尋ねました。ある貴族が食事のときの飲み水を少し残して毎日水を芽にかけていた。そのおかげで成長してこのように花が咲くようになったということを伝えました。
 この話を聞いた高官は、こんな小さな草でも惜しんで育てて花を咲かせようとする心の持ち主であれば、国のために役立つであろう。このような人を獄舎に入れておくべきではないということで、その貴族を解放しました。
 その後、貴族は革命政府に重用され、後にナポレオンが皇帝になったときにも、重要な地位に就いたということです。
 名もない草花一つを育てたということによって、その貴族の人生は開けたわけです。小さな芽でも花が咲くものだと思って、これを大切に育てあげようという心が社会に役立ち、国にも役立つと評価されたのです。この考えで革命政府に重用した幹部の見識も立派なものです。
 価値の低いものを無視しがちですが、小さないのちでも大切にし、育てあげようとする心は貴いものです。

        (平成23年6月)