(ミニ法話)  こころの泉

     70.香風

 6月に入って境内にある菩提樹の花がいっせいに咲き始めました。馥郁とした香りが漂ってきました。その香りに誘われるようにして、大小の蜂が蜜を吸うために毎年どこからともなくやって来ます。特に早朝外に出て香りを嗅ぐと、清々しい気持ちになります。
 『法華経』に、
 「栴檀の香風、衆の心を悦可す」
とあります。栴檀の花の香りを含んだ風が吹いて、その風にあたった人々の心が悦可(えつか)する、すなわち喜びに満ちるとの意です。
 香りには色も形もありませんが、人の心に影響を与えるものです。よい香りを嗅ぐと心が落着き、気分もよくなります。悪い香りを嗅ぐと気分が悪くなってきます。このことは、人間にも当てはまるのではのではないでしょうか。人間にも香風のようなものがあります。世間で評価されている人に会い、立派な話を聞いても、何となくすっきりせず、後味が悪いという人がいます。反対に評価されていなくて言っていることは普通で感心することはないが、後になって会ってよかったと思える人がいます。
 長い間心を練ってきた人は、「自分が」という我を外に出すことはないので、人を柔和にするものが身についているのだと思います、ブッダを信じ、信頼している弟子がブッダに会って側にいただけで病気が治ったという話があります。また、玉城康四郎先生が学生の頃、いくつかの疑問点を抱えて東京から夜行列車に乗り、朝京都に着いて師である足利淨円師に会いに行かれたことがありました。。自宅を訪ね、出されたお茶を飲んでいただけで質問することなく、疑問点が解決できたとのことです。このようなことが何度かあったそうです。これらの話は、人徳の香風に感応したということだと思われます。

        (平成23年7月)