(ミニ法話)  こころの泉

      71.獅子のごとく

 獅子は、最も強い動物とされています。お経の中に獅子の言葉がよく出てきます。獅子は最も強い動物ということから、最も勝れた人に譬えています。これとは別の意味もあります。「獅子兔を搏(う)つこと、なお象を搏つがごとくす」がそれです。獅子が兔を捕えるとき、象を攻撃するように攻めるという意味です。獅子にとって兔は小さな動物であって、楽に捕えることができます。象は獅子よりも大きな動物ですから、象を攻撃するときは必死です。つまり、小さな兔を捕えるときにも、象を攻撃するのと同じように必死になって攻めるということです。相手が弱いから力を抜く、相手が強いから力を入れるということではないのです。
 この教えは参考になります。大事なことだから力を入れて熱心に取り組む、ささいなことだから力を入れない、とこのように考えてはならないということです。今まさにしなければならないことは、大きいこと小さいことに関係なく全力をそそがなければならない。獅子は兔を捕えるとき、象を攻撃するときと同じように全力をそそぐ。われわれも日常の中でそのように思わなければならないとの教えです。これは大したことではないからと判断して、小さなことを疎かにしやすいものですが、その小さなことが大きな成果を上げるということもあり得るのです。
 最も勝れた人という意味だけでなく、このような内容からもブッダを獅子に譬えたのです。ブッダは、知識のある人にも、道理のわからない人にも、同じような心で対応されました。王族であろうが、低カーストの人であろうが、差別することなく平等に力をそそいで法を説かれました。兔を搏つこと象を搏つがごとくする獅子と同じように、人々の救済のためにいつでも全力を尽くされたのです。

        (平成23年8月)