(ミニ法話)  こころの泉

      78.怒りの報い

 ブッダが、サーヴァッティの郊外のミガーラマーターの精舎にとどまっておられたれたときのことです。早朝街の中に入って托鉢をしていると、一人のバラモンがブッダの姿を見て近寄ってきました。そのときのシャカ教団はまだ新興の教団でしたが、人々の支持を受けて大きくなりつつあったので、他の宗教者たちは心よく思っていませんでした。このことは、経典の中にも記されております。
 ブッダに近づいてきたそのバラモンは、大声をあげてブッダをののしりました。しかし、ブッダは、平然として托鉢の歩みを進めました。その態度を見て、彼はますますかっとなって、土のかたまりをつかんでブッダに投げつけたのです。たまたま風が吹いてきて、バラモンは風下に立つことになり、土くれがバラモンの顔に当たってしまいました。
 あわてふためくバラモンの様子を見て、ブッダは、「もし人が理由なく悪い言葉を放って怒りののしって、罪のない人を汚そうとすると、その悪は自らに返ってくる。たとえば、土をつかんで人に投げれば、風に逆ろうて返ってきて自らを汚すようなものである」と静かに言われました。
 この言葉を聞いて、バラモンは、はっとわれに帰り、ブッダの前に深く頭を垂れて、「わたしは誤っていました。このような悪い言葉を放ったことは、まことに愚かなことでした」と反省しました。
 怒りは三毒の中の一つの煩悩であり、毒と称されるほどの強い煩悩です。怒りを人にぶつけることは、悪業です。ブッダが、「その悪は自らに返ってくる」と言われたように、怒りの悪業は自らの心を汚し、その報いを受けなければならないということです。その報いはどのようなかたちになるのか予測がつきませんが、悪果となることは確実です。

        (平成24年3月)