(ミニ法話)  こころの泉

        91.覚悟の人生

 あるとき、ブッダは次のような譬え話をされました。
 「人が道を歩いていたとき、後から象が追ってきた。踏み潰されては大変だと思って逃げ場所を探していると、道の側に井戸があるのを見つけた。空井戸であった。他に逃げる所がないのでその井戸の中に入り、くぼみの所に足をかけた。丁度木の根があったので、それに掴まって象が通り過ぎるのを待っていた。象は井戸の中に入ることができず、上から覗いているだけであった。木の根に掴まりながら早く象が行けばよいと願って何気なく下を見ると、恐ろしい毒蛇が口を開いて落ちてくるのを待っていた。また、周囲を見ると、白いネズミと黒いネズミが二匹代わる代わる出てきて、掴まっている木の根を囓っている。木の根が切られると下へ落ちてしまう。落ちれば毒蛇に噛まれる。上に出れば象に襲われる。どうしようかと思索していると、枝においしそうな実がなっていることに気づいた。その実から汁が落ちているので、口で受けてみると非常に甘い。木の実の甘い汁を喜んで木の根をネズミが囓っていることも、毒蛇が下で口を開けていることも、象が上から覗いていることも忘れてしまって、夢中になって甘い汁を舐めていた」
 ブッダはこのように話されて、「汝らの日々行なっていることはこのようなものである。白いネズミと黒いネズミは昼と夜のことで、昼と夜が今日、明日、明後日とやってくる間に、汝らの命の根は少しずつ噛み切られて先が短くなっている。そのため生きている間に覚悟を定めなければならない。だが、人生のつまらない楽しみにとらわれている。それは丁度木の実の甘い汁を舐めているようなもので、命の根が無くなっていくことも知らない。また人生の無常を知る智慧もない」と説かれています。
 一日一日を大切にして充実した人生を過ごすことが求められています。

        (平成25年4月)