(ミニ法話)  こころの泉

        93.時機を待つ

 室町時代の末は群雄割拠の時代であり、甲州には武田氏、越後には上杉氏というように英傑が並びたっていました。その勢力を張る時機は人によって違っています。たとえば、越後の上杉謙信は14歳の時に初めていくさに勝ち、16歳で春日山の城主になり、30歳を過ぎる頃には北越全体に勢力を振るうというように非常に早くから活躍した人です。ところが50歳にならずして死んでしまいました、
 反対に小田原の北条早雲は、60歳まで相模の今川氏の元でやっかいになっていました。居候のようなものですから、全く力を発揮することができませんでした。60歳のときに初めて伊豆韮山の城を取り、その周辺に勢力を張って、80歳の頃に小田原城を根城として関東八州を平定することができたのです。
 この二人を比較してみると、一人は14歳から世に出て活躍したが50歳を前にして死んでしまった。一人は60歳まで何もすることなく、80歳で大きな勢力をもつようになった。しかし、この二人の力に優劣があるわけではありません。どちらも立派な歴史に残る英傑です。上杉謙信は力を現わすべき時機を早く得たので早く力を伸ばしたが、北条早雲は力を発揮する機会がなかなかやって来ず、60歳になってやっと時機を得て、大きなはたらきをしたということです。一見すると、上杉謙信に比べれば北条早雲は劣るように思うかもしれませんが、力を伸ばす機会が早くからあったか無かったかの違いだけということです。
 人生にもこのようなことがあります。早くから頭角を現わしたからといって誇ることはないし、力を発揮する機会が遅かったといって卑下することもありません。要は日常から努力を怠らず、時期が来ればいつでも力を発揮できるという実力を養っておくことが大切だと思われます。

        (平成25年6月)